第4話 妹への想い
「……とりあえず、どうする?」
ぽつりと漏れた独り言は、静かな部屋の空気に溶けていく。
「朝まではまだ時間がある……。妹を起こさないように、何が出来るか……少し考えてみるか」
そう呟くと、彼は再び腕を組み、思案に沈んだ。
(妹とキスをするのは最重要……だが……)
喉の奥でごくりと息を呑む。
(この状況なら……他にも出来ることがあるはずだ。例えば――手を握る、とか)
その考えに至った瞬間、彼はゆっくりと顔を上げ、天井を見つめた。
(手を握る……か)
しばしの沈黙。
やがて、遠い記憶を手繰るように、彼の思考は過去へと遡っていく。
(そういえば……小さい頃は、よく妹と手を繋いで歩いていたな)
脳裏に浮かぶのは、無邪気に笑う幼い妹の姿。
(「にいたん、にいたん」って……あの頃は、やけに懐いてきて……。いつも俺の後を追いかけてきてたっけ)
思わず、口元がわずかに緩む。
(あの頃は……ほんと、可愛かったよな)
ふと我に返ると、彼は視線を落とした。
目の前では、妹が静かな寝息を立てている。規則正しく上下する胸、安らぎに満ちた表情――。
その顔を見つめる彼の瞳には、どこか切なさが滲んでいた。
「……いや、そんなことはないな」
小さく首を振る。
「俺の妹は……今でも、十分すぎるくらい可愛いじゃねえか」
まるで確かめるように、言葉を紡ぐ。
「腰まで伸びた真っ直ぐな黒髪に……長いまつ毛、整った顔立ち……それに、柔らかそうな桃色の唇……」
眠る妹の姿をなぞるように、彼の視線がゆっくりと動く。
「誰が見たって……こいつは、すげえ可愛いよ」
その声音だけを聞けば、妹を大切に思う、優しい兄そのものだった。
――だが。
(だからこそだ!)
胸の奥で、熱を帯びた感情が膨れ上がる。
(俺は妹が好きだ……愛している! たとえ、血の繋がった妹だと分かっていても……!)
その想いは、常識の枠を軽々と踏み越えていた。
本来ならば、どこにでもいる平凡な――いや、むしろ恵まれた青年でいられたはずの彼を、決定的に歪めているもの。
(お前のことは――必ず)
ぎゅっと拳を握りしめる。
(この俺が、幸せにしてみせる!)
次の瞬間、彼は勢いよく両腕を振り上げた。
音もなく掲げられたその拳は、誰に見せるでもなく――ただ、静かな部屋の中で、強い決意だけを刻みつけていた。




