表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/43

第35話 金髪碧眼の少年とメイドの少女

 天道隼斗が玄関の扉を開いた、その瞬間だった。


 目の前に立っていたのは、あまりにも場違いな二人組だった。上下を真っ白で統一した学ランに身を包んだ、金髪碧眼の少年。そしてその隣には、黒を基調とした端正なメイド服を着た、黒髪ショートの少女が控えている。


 一瞬、隼斗の思考が止まった。ぱちり、と目を見開いたまま固まる。


 やがて、ぎこちなく口を開いた。


「ア、アイアム、ア……アン……ア、え……と……」


 ――ひどかった。


 英語が苦手、などという次元ではない。単語すらまともに並ばず、意味を成さない音だけが玄関先に虚しく漂う。


 隼斗は、かなりのアホだった。


 その様子を見て、隣に立っていたメイド服の少女が、思わず口元に手を当てる。


「ふふ……」


 小さな笑い声がこぼれた。


「初めまして。私は至宝院家に仕えるメイド、倉敷揚羽くらしきあげはと申します。そして――こちらにおわしますのが、至宝院財閥次期当主、至宝院龍馬しほういんりゅうま様でございます」


 流れるような所作で一礼する揚羽。その隣で、金髪の少年――龍馬が静かに口を開いた。


「君は私を外国人だと思って、無理に英語で話そうとしたのだろうが……残念ながら、私はれっきとした日本人だよ。もっとも、父が日本人で母がイギリス人のハーフではあるがね」


「……マジで?」


 隼斗の顔から、見る見るうちに緊張が抜けていく。そして次の瞬間、心底ほっとしたように息をついた。


「なんだよ、日本語ペラペラじゃねえか。変に焦っちまったぜ」


「余計な気を使わせてしまったようで、すまない」


 龍馬は右手を胸に当て、軽く頭を下げる。その仕草は年齢に似合わず洗練されていた。


「ああ、いいっていいって。勘違いした俺も悪いしな」


「そうか。それなら、この件は水に流そう」


 龍馬は小さく頷き、改めて隼斗を見据える。


「ところで――君はこの家の人間なのかな?」


「いや、違うな。俺はこの家の人間じゃない。でも……まあ、深い関わりはあるってとこだ」


「ほう。どのような関わりだ?」


「ここに住んでる爺と婆ちゃん、あの二人がさ。俺の祖父と祖母なんだよ」


 一瞬、龍馬の目に理解の色が浮かぶ。


「なるほど……。ということは、君が天道麗奈の兄――天道隼斗か」


「おお、そうだけど……って、何で俺の名前知ってんだよ? もしかして俺、そんなに有名だったりする?」


 期待半分で身を乗り出す隼斗。


 しかし――


「すまない。君のことは名前しか知らないのだが……君の妹、天道麗奈のことはよく知っている」


 その一言で、すべてが崩れた。


「ああ、麗奈ね……」


 隼斗は一拍置き、乾いた笑いを浮かべる。


「なるほどな。俺は麗奈の“ついで”ってわけか」


 分かっていた。分かってはいたのだ。


 それでも――


「まあ、いつものことなんだけどな……」


 ぽつりと漏らした言葉とともに、隼斗の肩ががくりと落ちる。


 玄関先の空気に、ほんの少しだけ哀愁が混じった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ