第34話 来客
「婆ちゃん、ごちそうさま。すっごく美味しかったよ」
食卓には、焼き魚の香ばしい匂いがまだほのかに残っていた。白菜のおしんこに、湯気の立ちのぼる味噌汁――どれも素朴で、それでいてどこか懐かしい味わいだ。
それらをきれいに平らげた隼斗は、満ち足りた表情で箸を置き、背もたれに軽く体を預ける。
「それは、お粗末さまでした」
ひよ子は、柔らかな笑みを浮かべながら応じた。その声音には、どこか誇らしげな響きが混じっている。
「なあ、婆ちゃん?」
ふと思い出したように、隼斗は首をかしげた。
「さっきから爺の姿が見えないんだけど?」
「ああ、重久さんならね。今日はお客様がいらっしゃるそうで、道場のほうで待っているわよ」
「爺に客?」
隼斗の眉がわずかに動く。
「しかも道場でってことは……その客、武術をやってる人ってわけか」
興味を含んだ呟きが、静かな部屋に落ちた――その時だった。
ピンポーン――。
不意に、母屋の静寂を切り裂くようにインターホンの音が響く。
「あら、噂をすれば何とやらね」
ひよ子は小さく笑いながら立ち上がり、手際よく食器を重ねる。
「どうやら、そのお客様がいらしたみたい」
「ああ、婆ちゃん。客なら俺が出るよ」
隼斗もすっと立ち上がる。
「あら、そう? それじゃあ――もしお名前が至宝院さんって方だったら、道場のほうへ案内してちょうだい」
「オーケー、任せて」
軽く手を振りながらそう言うと、隼斗は廊下へと足を向けた。
どこか胸の奥がざわつくのを感じながら、玄関へと続く道を進んでいく。




