第32話 天道重久の家
天道重久の家は、どこか古びた旅館を思わせる二階建ての母屋を中心に構えていた。
隣には広々とした道場が併設されており、さらにそれらすべてを覆い隠すように、高い塀が四方をぐるりと囲んでいる。その佇まいは、外界と一線を画すかのような静けさと威圧感を漂わせていた。
天道隼斗は、開け放たれたままの門をくぐり、迷いのない足取りで敷地へと足を踏み入れる。
母屋の玄関前に立つと、インターホンを一度だけ鳴らした。
わずかな間を置いて――
「はい、どちら様ですか?」
柔らかな女性の声が、スピーカー越しに響いてくる。
「婆ちゃん、オレオレ」
気軽な調子でそう返すと、
「オレオレ? もしかして、オレオレ詐欺の人ですか?」
間髪入れずに返ってきた言葉に、隼斗は眉をひそめた。
「そんな訳あるか! どこの世界に自分からオレオレ詐欺って名乗る奴がいるんだよ!」
思わず声を張り上げて突っ込む。
すると、くすりと笑う気配がして、
「冗談よ、隼斗。そんなに怒らないで」
そう言い残し、ほどなくして玄関の扉が開いた。
姿を現したのは、隼斗の祖母――天道ひよ子。穏やかな笑みを浮かべながら、どこか楽しげにこちらを見ている。
「怒ってはいないよ。いつものことだし」
対する隼斗は、呆れたように肩をすくめた。
「ふふふ。さすがは隼斗、よく分かってる」
「婆ちゃんと長く付き合ってりゃ、嫌でもな」
軽口を交わしながら、隼斗は靴を脱いで母屋の中へと上がり、そのまま居間へと向かう。
一方、ひよ子は一度台所へと足を運び、手慣れた様子で湯のみを二つ用意し、湯気の立つお茶を注いだ。さらに季節の和菓子を添えて盆に載せると、それを両手で持ち、ゆっくりと居間へと向かっていった。




