第27話 隼斗の怒り
「く、来るな……! それ以上、こっちに来るんじゃねえ!」
後ずさりながら、少年は叫んだ。声はかすれ、恐怖に歪んでいる。
「な、何なんだよお前は……!? こんなの、有り得ねえ……こんな事、あっていいはずがねえんだよ!」
その視線の先で、天道隼斗は歩みを止めない。
一歩、また一歩と、静かに距離を詰めてくる。その足取りには一切の迷いも、躊躇もなかった。
逃げなければ――そう思っているはずなのに、少年の足は言うことを聞かない。膝は笑い、力が入らず、ただその場で震えるばかりだった。
やがて、隼斗は目の前まで辿り着く。
「た、助けてくれ……! お、俺は何もしてねえ! だから――」
「何もしてない?」
低く、押し殺した声が返る。
「いいや。お前は、やっちゃいけないことをやった」
「な、何をしたって言うんだよ! 俺はただ、あいつにキスしようとしただけで――」
「それで十分だ」
言葉は短く、だが決定的だった。
隼斗の目が、冷たく細められる。
「お前は、俺の大事な妹を泣かせた。それだけで――理由としては十分すぎる」
静かな怒りが、空気を震わせる。
隼斗はゆっくりと右手を握り締めた。指の骨が軋む音が、やけに大きく響く。
「ま、待て……! 頼む、待ってくれ! お、お願いだ、助け――」
「あたあああッ!!」
裂けるような気合とともに、拳が振り下ろされた。
上段から叩きつけられた一撃は、迷いなく少年の腹部へとめり込む。
「ゲフッ――」
空気が強制的に吐き出される鈍い音。
少年の体がくの字に折れ、そのまま力なく崩れ落ちた。口元には白い泡が浮かび、意識は完全に途切れている。
その場には、ただ静寂だけが残った。




