第26話 異常な光景
「あ……? な、何が起きた……?」
少年は呆然と周囲を見回した。つい先ほどまで騒がしく立っていた仲間たちが、今は誰一人として立っていない。
「お、おい……! お前ら、なんで倒れて……おい! どうしたんだよ!? なんで急に、みんな……!」
返事はない。ただ地面に崩れ落ちたまま、微動だにしない。
理解の追いつかない異様な光景に、少年の声は次第に震えを帯びていった。
(やっぱり……お兄ちゃんはすごい)
少し離れた場所からその様子を見ていた麗奈は、胸の奥でそっと呟く。
(あれだけ離れているのに……しかも七人を一度に……)
天道流護身術――その裏奥義は、天道隼斗が自ら編み出した、唯一無二の技だった。
気功烈波百裂拳。
凝縮した“気”を拳に乗せ、連続して撃ち放つことで、間合いを超えて対象を打ち据える。
それは並の使い手では到底扱えない領域の技。
天才と称される麗奈でさえ、そして“武神”と謳われる重久でさえ、未だ会得には至っていない。
「麗奈、もう大丈夫か?」
静かに振り返った隼斗が、いつもの調子で声をかける。
「うん……大丈夫」
先ほどまでの恐怖が嘘のように、麗奈はしっかりと頷いた。
「なら、あの子を頼む」
隼斗の視線の先には、地面に座り込み、肩を震わせて泣いている少女の姿があった。
「分かった。任せて、お兄ちゃん」
麗奈は一歩踏み出し、少女のもとへ向かう。
「――さてと」
それを見届けた隼斗は、小さく息を吐いた。
「最後の掃除でもするか」
淡々と呟きながら、彼はゆっくりと歩き出す。
向かう先は――地面にへたり込み、蒼白な顔で状況を受け止めきれずにいる、リーダー格の少年のもとだった。




