第22話 麗奈の実力
先に動いたのは少年だった。
鋭く踏み込み、右足がしなる。空気を裂きながら放たれた蹴りは弧を描き、麗奈の胴を薙ぎ払わんと迫った。
だが――。
麗奈は一歩、静かに後ろへ引く。それだけで、蹴りはわずかに空を切った。
「ヒュ~……今のを躱すか」
少年は口笛まじりに笑う。
「結構、やるじゃねえか!」
次の瞬間、間合いを取り直す暇もなく、少年は地を蹴った。勢いのまま距離を詰め、右、左と拳を連続で叩き込む。狙いはすべて、麗奈の顔面――容赦のない連撃だった。
しかし。
当たらない。
一撃も。
麗奈は最小限の動きで、すべてを紙一重で躱していく。首をわずかに傾け、半歩ずらし、ただそれだけで拳は虚しく空を切り続けた。
「な、何だよ……!?」
少年の顔から余裕が消える。
「何なんだよ、てめえはよ!?」
繰り出す攻撃は速さも重さも十分だった。にもかかわらず、一度たりとも触れることすらできない。その現実が、少年の理解を拒んでいた。
「し、信じらんねえ! 何なんだよ、これ! ちきしょう!!」
焦りに任せ、さらに拳を振るう。だが結果は同じだった。
打つ――外れる。
打つ――また外れる。
一方的な攻撃と、一方的な回避。
その異様な均衡が、数分にわたって続いた。
「はあ……はあ……はあ……」
やがて、少年の動きが鈍る。肩で息をし、足元もふらつき始めていた。
「ち、ちくしょう……」
対照的に、麗奈の呼吸は微塵も乱れていない。まるで最初から何もしていないかのように、静かにそこに立っていた。
「どう?」
麗奈が、淡々と口を開く。
「まだやるの? これ以上続けるなら――次は私が、あなたに技を出すことになるけど」
その言葉には、脅しではない確信があった。
「……わ、分かったよ」
少年は視線を逸らし、肩を落とす。
「俺の……負けでいい……」
あまりにもあっさりと、敗北を認めた。
「それなら、今すぐここから立ち去りなさい」
「ああ……分かったよ……。すぐに――」
少年は俯いたまま数歩下がる。
そして。
「――って、言うと思ったか馬鹿が!」
顔を上げた瞬間、その表情は歪んだ笑みに変わっていた。
「おい、お前ら! みんな出て来い!」
その叫びに呼応するように、背後の木立の奥からざわりと音が広がる。複数の足音が、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。
「え……あなた、仲間がいたの?」
麗奈がわずかに眉をひそめる。
「ヒャッヒャッヒャッ!」
少年は大きく口を開けて笑った。
「そうだよ、お嬢ちゃん。俺の仲間がさあ、ずーっと向こうに隠れてたんだよねえ」
足音はさらに増え、気配が四方を囲み始める。
「現実ってやつはさあ――残酷じゃねえ?」
勝利を確信したかのように、少年は高らかに笑い声を響かせた。
「ギャハハハハハハハハハハハッ!」




