第18話 麗奈の過去
天道麗奈は、夢を見ていた。
それは――今から二年半前。小学校の卒業を間近に控えた、まだ幼さの残る六年生の頃の記憶。
忘れたはずの、ある出来事。
それが、ぼんやりとした輪郭を伴って、静かに蘇っていく――。
「麗奈ちゃん、またねー!」
「うん、またねー!」
夕暮れの駅前。
別れ際に手を振る友達の姿が、徐々に人混みの中へと溶けていく。
麗奈はその場を離れ、家へと続く道を歩き始めた。
ふと、腕時計に視線を落とす。
(あれ……ちょっと遊びすぎちゃったかも……)
短針と長針の位置を確認した瞬間、胸の奥に小さな焦りが芽生えた。
(このままだと……門限、間に合わないよね……?)
足取りがわずかに速くなる。
(でも……裏道を使えば……)
脳裏に、ひとつの近道が浮かぶ。
だが同時に、その道の記憶も蘇った。
(あそこ、街灯が少なくて暗いんだよね……あんまり通りたくないけど……)
一瞬、迷いが生じる。
けれど――。
(……仕方ないよね)
小さく自分に言い聞かせると、麗奈は顔を上げた。
「よし、行っちゃえ!」
軽く気合を入れ、賑やかな表通りから外れる。
人の気配がまばらな裏通りへと、一歩足を踏み入れた。
そこは、昼間とはまるで別の顔を見せる場所だった。
進むにつれ、人影は消え、音も遠のいていく。
やがて目の前に現れたのは、広い公園。
人気はなく、木々が生い茂り、奥へ進むほどに闇が濃くなる。
(ここを抜ければ、すぐだよね)
迷うことなく、麗奈は公園の中へと入っていった。
砂利を踏む足音だけが、静寂の中に小さく響く。
しばらく歩いた、その時だった。
「た……すけ……て……」
か細く、今にも消え入りそうな声。
それは、木々の奥――暗がりの向こうから聞こえてきた。
(……え?)
麗奈は足を止める。
(今の……女の子の声……? 助けてって……?)
胸の奥がざわつく。
(お化け……じゃ、ないよね……?)
次の瞬間――。
「ヒャッヒャッヒャッ! こんなとこで助け呼んでもよぉ、誰も来やしねえっての!」
今度は、耳障りな嘲笑。
同じ方向から響く、少年の声。
(……なに、これ)
背筋に冷たいものが走る。
(おかしい……普通じゃない!)
直感が告げていた。
これは、見過ごしてはいけないものだと。
麗奈は躊躇うことなく駆け出した。
声のした木々の奥へ――。
枝葉をかき分け、暗がりへと踏み込む。
そして、目にした光景。
そこにいたのは――。
地面に座り込み、肩を震わせて泣いている一人の少女。
そして、そのすぐ傍に立ち、見下ろすようにして嘲りの言葉を浴びせる少年の姿だった。




