第15話 天道隼斗、目が覚める
天道隼斗は、ゆっくりと瞼を開いた。
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、容赦なく彼の視界を白く塗りつぶす。
「うっ……ま、眩しい……」
思わず顔をしかめ、再び瞼を閉じる。伸ばした右腕で光を遮りながら、彼は小さく息をついた。
「ん……もう朝か?」
半ば眠気の残る意識のまま、枕元の目覚まし時計に手を伸ばす。ぼんやりとした視界に映った針の位置を認識した瞬間、隼斗の眉がわずかに動いた。
「……なんだよ、もう一〇時近くじゃねえか」
気の抜けた声が、静かな部屋に落ちる。
「まあ、夏休みだし……別にいいか」
自分に言い聞かせるように呟くと、隼斗はようやくベッドから体を起こした。黒のTシャツにグレーのスウェットというラフな格好のまま、気だるげに部屋を出る。
廊下を抜け、階段へ。
「……腹、減ったな」
両腕を大きく上へ伸ばし、骨が鳴るほどの伸びをしながら、一段一段ゆっくりと降りていく。
やがて一階のダイニングにたどり着き、何気なくテーブルへと視線を向けた。
「……何もねえな」
四人掛けのテーブルは、驚くほどきれいに片付いている。朝食の気配など、どこにもない。
「まさか、俺の飯……用意されてないのかよ?」
呆れたように呟きながら、今度は冷蔵庫へと向かう。
「いや、作り置きくらいは……」
扉を開けた瞬間、その期待はあっさりと打ち砕かれた。
「……って、食材しかねえ!? マジかよ!」
思わず声が大きくなる。
隼斗は料理が苦手だった。いや、苦手というより壊滅的と言った方が正しい。自分で作れば、なぜか食べ物はことごとく“別の何か”へと変貌する。
(そういや今日……親父とお袋、温泉旅行だったな)
頭の中で、ようやく状況が繋がる。
(朝早くから一泊二日で出かけて、帰ってくるのは明日の夕方……か)
冷蔵庫の扉を閉め、隼斗は小さくため息をついた。
「……つうか、別に驚く必要もねえか」
ぽつりと呟く。
「飯なら、麗奈に頼めばいいんだし」
その名を口にした途端、少しだけ表情が緩む。
天道麗奈。まだ一四歳、中学三年生。だがその料理の腕前は、素人の域を軽々と飛び越え、下手な料理人すら凌ぐほどだった。
武の才に恵まれた彼女は、その器用さを料理にも余すことなく発揮している。
「よし……」
隼斗は軽く頷くと、踵を返した。
「んじゃ、早速――うまいもん、作ってもらうか」
そう言って、彼は再び階段を上がる。
向かう先は、二階――麗奈の部屋だった。




