名付け
「あの方大丈夫でしょうか?」
「さっきの馬鹿か。今頃、……心優しいお医者さんに助けられてるだろう」
「そうですか。それなら安心しました。私のせいで怪我をしましたから」
「あれはお前のせいじゃない。気にするな。それより、目的地に着いたぞ」
大きな神木である母の下には沢山の人や地面に棒が刺さっている。
ファザーは棒が刺さった場所まで行ったので、私も一緒に付いていきました。彼は地面に向かって手を合わせます。
「何をしているのですか?」
「……死んだ娘を弔っているんだ」
「つまりこの棒は……?」
「娘の墓だ」
墓というものが何なのかは分からないけど、今は聞かない方がいいとなんとなく分かりました。
私も手を合わせて目を瞑ります。これが何を意味するのかは分かりませんが。
「ファザーさん、こんにちは。今日も来てたんですね。おや、そちらの方は?」
話しかけられる言葉に目を開けて、振り向くとそこには恩人様がいました。
「こんにちは、セイさん。この子は新しい家族です」
「こ、こんにちは。先程ぶりですね」
恩人様はこれでもかというぐらい目を開き、私を見ます。
「先程のお嬢ちゃんか。無事で良かった……」
心配してくれてたんだ。やっぱりいい人だ。けれど、あんな目に遭ったのはこの人のせいでもある。
「分かってて死地に送ったということですか! ファザーさんが来なければ、私…食べられてたかもしれないんですよ!!」
「それは……すまない。家族を養うため必要なことなんだ。私の事は許さなくていい。恨んでくれ」
彼は帽子で目を隠し、目を合わせようとはしません。
「私をあのお店に案内したことは許しません。ですが、貴方が助けてくれたことも事実です。だから恨みません」
恩人様は私と目を合わし、一言謝ってから仕事場に戻っていきました。
「いいのか?」
「何がですか、ファザー」
「何でもない。さあ、行こうか。神木に触れる距離まで」
「ええ!」
元気よく返事をして、私はファザーの手を握り、木の下まで移動しました。
「名前は分かった?」
お母さんに触れた私を後ろで見守っていたファザーが話しかけてきた。
「分かりません」
「何で?」
「お母さんが喋らないので」
「それもそうか。お前達と違って母親は木なんだから」
喋る器官がないから? でも生まれ落ちる前までは……。
「お母さんは私の名前をつけてくれないんだ……じゃあ、私は――」
なんて名乗ればいいのだろう。そう口にしようとしました。
「フタバ」
「え」
「今日からお前はフタバだ。お前の新しいお父さんとして名付ける」
「お父さん……」
ーーお父さん! 私、歩けるようになりたい!
ーー……歩けるように父さんがしてやる。変化の果実をいっぱい食べて、初めてのヒーラーに私はなるんだ
ーーやったー!! じゃあ、待ってるね!
私のものではない記憶が流れ込んでくる。けれどそんな些細なことなんて気にしていられない。今は名付けられた喜びの方が大きい。
「お父さん、ありがとう」
「礼なんていらない。親として当然のことをしたまでだ」




