家族として
男性が何かを女性に手渡し、私を捕らえていた透明な壁が消え去った。そして男性は一歩一歩こちらに歩み寄る。
「嫌ッ!! 来ないで!!」
心の奥底から声を出し、後退りをしても後ろにある透明じゃない壁で逃げれない。しかし、男性は私の言葉を聞いて歩みを止めた。
「そんなに怯えないで。私は君を食べる気はない。勿論、労力として買ったわけでもないから安心しておくれ」
相手は嘘を言っているのかもしれない。私を騙して捕らえたら、きっと食べる気だ。信用なんてできない。
「その顔は信用してないな? はぁ……傷付くな」
男は頭をボリボリとかき、本当に悲しそうにしている。
「本当に食べるつもりはないんですか! それなら何で私を助けたんですか!?」
「家族として迎えたいからだ。お前は私の娘に似ている」
彼はそう言って微笑み、再び歩みを進める。あの笑顔は嘘なんかじゃ、なさそうだ。本当に食べないのかも。
でも、体はまだ信用していない。震えが止まらないのだ。
しかし、その震えも彼がしてくれた行動で収まった。
「よーしよしよし。いい子だ」
生まれて初めて頭を撫でられた。全く知らない人だが、撫でている手や表情はとても優しい。
「何で泣いているんですか?」
「……娘に似ているからだ」
そう言って彼は涙を拭かずに私を抱きしめた。
先程の建物で服という物を買ってもらい、私はそれを身に着けた。今まで私は何も着ていなかったのだ。だから家族を判別する手段は服を着ているかどうかだった。
しかし、私でも服を着れるとなると話は変わってくる。見分けがつかなくなりそうだ。
「これで私も人間の仲間入りになれたでしょうか?」
「いいや。その服にあるバッチがある限り果実人間として見られるだろうな……」
「……そうですか」
自然と男性が握られる手が強くなった気がした。
それにしても、被食者であることは変わらないのですね。このバッチがある限り私が果物だとバレてしまう。判断がつかなくなることといえばあれはどうなのだろう。
「そういえば、人間はこんなに大勢いるのにどうやって区別しているのですか?」
すれ違う人達を見ながら聞いてみた。
「容姿の違いや名前とかかな。ちなみに私の名前はファザー。君にも名前はあるのか?」
「私の…名前……」
お母さんに聞けば分かるのかな。私は名付けてもらう前にここまできちゃった。
「お母さんに聞けば分かるかもしれません」
「そうか。それなら行ってみよう」
ファザーがお母さんの居る方向に振り向いたので、私も振り向いた時、誰かに肩をぶつけてしまいました。
「ご、ごめんなさい!」
「痛ってぇな。姉ちゃん」
「姉ちゃん…? もしかして私の兄弟ですか?」
小太りの男が痛そうに腕を押さえながら、こちらに歩み寄ります。
「んなわけねーだろ。ふざけてるのか――ってそのバッチ……」
私は咄嗟に隠しました。けれど遅かった。男はにやりと笑い、手を私に近づける。
「飼い主はおっさんか? 俺の腕の治療費としてこの果実をもらっていいかぁ?」
冷や汗が止まらない。私は恐る恐るファザーを見ます。
「……ファイアーボール」
「ん? 何て――」
瞬間、ファザーの手から熱い球体が出てきて、小太りの男性に手が燃えた。肉が焼ける臭いがする。それに手が痛々しい
「痛ッてぇ゙――」
「治療費ならくれてやる。だが、二度と私の家族に手を出そうとするな!!……行くぞ」
ファザーは何か先程女性に渡していたものを大量にばらまき、私の腕を強く引っ張ってお母さんの居る方向へと進みました。
その時、ファザーがばらまいていた紙やコインを拾う野次馬達はまるで餌やりをされている鳩のようでした。




