清廉潔白過ぎる騎士シェルド
第一騎士団。
王国内の治安行為を取り仕切る組織であり、上層部には名誉職としての貴族が立ち、現場は警士と呼ばれる平民からの依願者が務めている。
だが、そんな環境でありながらも現場を第一として動く貴族もいる。
それが今回訪れた侯爵家の次男であるシェルド・リンブルク。歳は二十二だったはず。
真っ青な空のような髪を綺麗に首の上部で切り揃え、銀縁の眼鏡をかけた奥の瞳は太陽のように輝いている。
まさに清廉潔白な騎士といった印象ね。
だけども彼には汚職で捕まったグリオンとは違い、裏がない。
どこまでも見た目通りの印象なのだ。
「お待たせした。シェルド」
「これはレミゼラルムーン伯爵。お邪魔させていただいています」
応接室に訪れた私に対し、彼は二人掛けの黒革のソファーから立ち上がって礼をする。
「これは丁寧にありがとう」
私がこんな堅苦しい言葉遣いなのには理由がある。
というのもシェルドは立場を重視するので、私が敬語を使うと難色を示すのだ。
貴方は公爵家の当主であり、私は侯爵家の次男。
公の場ではそういった言動はやめてください。
なんて初めて会ったとき、(半年ほど前にシェルドがこの街の担当をするとして挨拶に来たときだった)こんなことを言われてしまったの。
言っていることは正論であるけど、私としては肩苦しい言葉遣いは嫌なのでと言ってもダメですとの一言である。
ここまでくれば誠実というよりももはや嫌味な人物に思えてきた。そんなことはないのだけど。
はぁ……厄介な人が担当になったものね……
こんな些細なこと陛下に伝えることもできないし……
「レミゼラルムーン公爵?どうかなさいましたか?」
「いえ……いや何ごとでもない。それで本日は定例報告か?」
「はい。我々第一騎士団が一週間で取り扱った事件の数と内容を報告に参りました」
そういったことは部下に任せてしまえばいいと遠回しに言ったのだけど、こういったことは街の警備を預かる管理者が報告するべきことなのですと言い切られてしまった。
気負い過ぎるようではあるが、確かに正論ね。
「我々第一騎士団の警士とレミゼラルムーン家の警士との連携により、強盗や殺人といった計画的犯罪は少なくなっていますが、突発的な暴力事件や貴族と平民の言い争いは毎日のように起こっています。その発生件数を抑えるにはどのようにすべきでしょうか?」
無理よ。
だって人間だもの。
なんて言えない。
そう言えば彼は人間だからこそ、秩序を守れるのです。と言い返してくるから。
欲望が渦巻く街に秩序?と思うかもしれないが、どのような場所でも秩序は必要なの。
じゃないと荒れるのは一瞬だからね。
貴族、昼の人間、夜の人間、外国人、多種多様な人種が混在するこの街は特に秩序を重んじる。
その番人がレミゼラルムーン家だ。
「以前は反目しあう間柄であった我が団とそちらの警士団の仲もそれなりに良好となり情報の共有が出来るようになり助かっておりますが、他に私がすべきことはないでしょうか?」
以前の第一騎士団は王家の直轄というプライドがあり、我が家の警士団は地元というプライドがあり、二つの仲は決して良くなかった。
そもそも二つの治安維持機関があるのが、貴族を含めた王都民とナディアス民が訴える場所の違いである。
なのでいろいろなしがらみで二つの組織が反目しあうのは仕方ないことだと思っていた。
(当然、事件解決の為には協力はするけど)
だが、彼に二つの組織がもっと協力すべきという私の提言に賛同した結果、彼は見事にその手腕を発揮したの。
誰よりも現場に直行し、かつ我が家の警士にも丁寧に話しかけた。
前回見たと思うけど、我が家の警士たちは言葉遣いなどの礼節はあまり得意ではない。それも悪意があるわけではなく、土地柄の為。
だけどシェルドは彼らなりの敬意を感じ取り、貴族に対して無礼なことも一切気にしない。
それどころか、飲みに誘ったりと交流をする始末。
非の打ち所がない人物なの。
私はこんな清廉潔白で有能な人などいるわけないと思い、酒場や劇場や遊戯場、果ては娼館にまでシェルドを探らせたのだけど……結果は真っ白の白。私の圧倒的な敗北だった。
酒は嗜む程度、賭博もせず女遊びもしない。
こんな人間がいるなんて、と驚いたものよ。
だからこそ、私は彼のことが苦手。
眩しすぎる光は、影を消し去ってしまうから。
「本日はありがとうございました」
「いや、シェルドの仕事にはこちらも感謝しているわ」
「ははっ。それでは私はこれで」
ふぅ……やっと終わった……
これで堅苦しい言葉遣いから解放される……
そう言ってシェルドが立ち去ろうとしたとき、
「あっ、申し遅れておりました」
「あら?何をかしら?」
「相変わらずのお美しさであられます。ライラック嬢」
「……ありがとうございますわ」
女性に会えば褒めるもの。
最後の最後に貴族男性としての柔和な顔を見せた。
「それでは私はこれで失礼いたします」
今度こそ彼は退室していった。
そして静かになった室内で私は黒革のソファーに拳を放つ。
えい、えい、えい。
私は彼が苦手なのは間違いない。
だってこんなにもドキドキさせるのだから……




