通じる想い
今日は秘密の会合の日。
今まで生きてきたライラックという人間は変わらないが、私の環境は激変する。
そのことを思うと憂鬱かに思うだろうけど、なぜか胸踊る高揚感がある。
これはきっと……
恥ずかしいので言わないでおくわ。
いつも通りの手順でやってきたいつも通りの小部屋。
そこにはすでに陛下とセイクリッド様が待っていた。
「ようこそ、ライラ。今日はいい日であるが、ライラの答えによって息子のにとって最悪な一日となる。どのような報告よりも先に、答えを聞かせてもらおうか」
おどけている陛下の姿はなく、あいさつすらも差し置いて私の答えを求めてくる。
よほど気を持たせていたようね。
それもそうか。
私という存在が原因で息子に婚約者がいないのだから。
「ではお答えさせていただきます。陛下にではなくセイクリッド様にですが」
「ふふっ。いつでも変わらんな。良いだろう」
陛下はソファに座ったまま口を閉じ、私の後ろにいるハオルも何も口にしない。
「……」
私は緊張した面持ちでこちらを見ているセイクリッド様と向かい合った。
お互いに立ったままで向き合うと、セイクリッド様の方が背が高い。
ヒールを履いていても届かないので、下から覗き込むような体勢となった。
「お待たせして申し訳ありませんでした」
「いや、構わない。こうして聞かせてくれるだけでも嬉しく思う」
「それでは……私という人生において、社交界で向けられる視線は負の感情ばかりでした。最初は悲しい思いをしたものですが、次第に慣れていくものですね。ですが、ただ一人だけ私に違う感情を乗せた視線を感じました」
私はじっとセイクリッド様の瞳を見つめると、言葉を続けた。
「負の感情ではなく心地よいものに、少女だった私は何かわかりませんでした。ですが、その方を温かみある存在だと思うようになりました。それはセイクリッド様、あなたのことです」
喉が高揚感でカラカラになっていく。
なので私はゴクリと固唾を飲んだ。
「小さな頃からのあなたとのやり取りは今でも思い出せます。それほどまでに近いあなたを私は喪いたくありません」
「私を……傍に置いてくれますか?」
「もちろん……もちろんだとも……まるで夢みたいだ……」
セイクリッド様はふわりと羽根のような軽さで私を抱きしめた。
そのあまりにも優しい触れ方に私の心臓が張り裂けそうなほど高鳴る。
そして見つめ合う。
小さな頃からの面影が残りつつも、たくましく成長したセイクリッド様の顔がすぐそばにあった。
「ね、姉さ……!」
「おっとここからは大人のやり取りだ。お子様は引っ込んでおれ」
「陛下!離してください!」
「いいや、離さん。息子の恋が叶う瞬間だからな」
私たちには少しの雑音も耳に入ってこない。
ただただ静かな空間で、私は少しだけ背伸びをして目を閉じる。
すると、
唇に柔らかいものが触れた。
力強いものではなく、羽と羽を重なり合わせるような優しい触れ合い。
「……お優しいのですね」
「……初めてのことだ。加減がわからない」
「私もです」
お互いに笑い合うと、そこで初めて観察者たちがいることに気づいた。
「もっとぶちゅぅといかんか!」
「姉様……姉様……」
羽交い締めに合っているハオルと陛下。
二人はまったく違う表情でこちらを見ていた。
まったく……これほどまでに周囲に対する意識を閉ざしたことはなかったわね。
でも……とても幸せな気分だわ。
「陛下、改めて申し上げます。私、ライラックはセイクリッド殿下の婚約者となりたく思います」
「これから、険しい道のりとなるぞ?」
「構いませんわ」
「よろしい!セイクリッドの婚約者として認める!」
「ライラック!」
「きゃっ!セイクリッド様!」
セイクリッド様は私を抱き上げると、満面の笑みを浮かべた。
「私は今、最高の幸せを手に入れた!」
「私も同じ気持ちですわ」
私たちは幸せの絶頂の中だった。
ただ一人、
「姉様……」
ハオルを除いて。




