シェルドへの返答
サクリッド様にお断りをしてから数日が経過し、今日はシェルドがやってくる日。
「お嬢様、シェルド様がいらっしゃいました」
ゼオンがノックとともに執務室を訪れた。
「応接室に通してちょうだい」
「はっ」
いつも通りの時間、一分の狂いもない。
相変わらずね。
「さて……行くとしますか」
私は深呼吸をした後、立ち上がり応接室へと向かった。
「レミゼラルムーン伯爵。お邪魔しております」
「ええ、御機嫌よう」
応接室に入るとすぐにソファに座っていたシェルドが立ち上がる。
私はそのまま奥にあるソファへと進み、腰を下ろすとシェルドに声をかけた。
「座りなさい」
「ありがとうございます」
シェルドは私の言葉に頭を下げると、静かに腰を下ろした。
そこからはいつものやり取りね。
犯罪の抑制のための提案、直近の報告、資金面での相談。
その一つ一つに真剣な表情で話すシェルド。
この真面目過ぎる男性に苦手な印象を持っていたというのに、今となっては綺麗さっぱりなくなっている。
「伯爵?」
「……えっ?ああ、ごめんなさい。少し放心してしまっていたわ」
「珍しいこともあるものですね」
「私だって人間よ?少しのミスくらいはあるわ」
「ふふっ、冗談ですよ。あらためて報告させていただきます」
シェルドが笑うなんて珍しい。
そう思いつつ、私は今は関係のないことを頭から振り払った。
そして一時間が経過し、面会は終了の時間となる。
「本日もお時間をいただき、ありがとうございます」
「いいえ、こちらも有意義な時間だったわ」
その言葉をもって、仕事の時間は終わり。
ここからはプライベートな時間。
「シェルド?少しお時間をもらってもいいかしら?」
「ええ、構いませんが?」
「あなたの提案に対する返事をしたいの」
「……かしこまりました」
笑顔だったシェルドの表情が再び真剣な表情へと戻る。
そんな彼に私は、
「ごめんなさい。あなたの思いには応えられないわ」
否定の言葉をかけなければならなかった。
「……そうですか」
シェルドは眼鏡を押さえて、俯く。
「正直、あなたには少なからず好意はあるわ。でもそれ以上に好きな人ができたの」
「ええ、はっきりと伝えてくださいまして感謝いたします」
悲しげに微笑むシェルドに心が痛む。
それでも伝えるべきことだった。
「つきましてはこれからも変わりなく、この街の治安を受け持ってもよろしいでしょうか?」
「当然よ。あなた以上に信頼できる人はいないわ」
「そうおっしゃってくれるのならば、私も大変光栄に思います」
その言葉とともにシェルドは立ち上がると、
「ありがとうございます。そして今後ともよろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそ」
深々と頭を下げた彼に、私も頷くのだった。
「それでは失礼いたします」
「ええ、気をつけて」
シェルドの姿が見えなくなったと同時に、私の身体は脱力していく。
「はぁぁぁ……もうこんな想いはこりごりだわ……」
好意を向けられることは素直に嬉しい。
だって嫌われている令嬢だもの。
だけど、それが恋愛に関わってくると……難しいものね。
シェルド……間違いなく良い人だわ。
でもそれ以上に私は……
ええ、間違いない。
ようやく私にも確信ができた。
あの人を好きになっているって。
「ハルトさん!お疲れ様でした!」
「おう、気をつけて帰れよ」
王都、第三騎士団の詰所では交代の時間となっていた。
「それではハルトさん引き継ぎを」
「まあ何事もなく平和だったな!」
「いえ、もう少し具体的に……」
「まあ気にすんな!それじゃあな!」
ハルトは部下の背を叩くと、詰所を抜けて門から出ていく。
すると、
「ハルト」
「おお、シェルドじゃないか」
壁に背を預けているシェルドに声をかけられた。
「どうしたんだ?お前から会いに来るなんて珍しい」
「少し、飲みに行かないか?」
「おっ!いいぞ!」
「聞いてほしい話があるんだ」
「なんだなんだ?神妙だな?」
「失恋の愚痴さ」
「……そうか」
ハルトはシェルドから聞いていた。
ライラックに想いを伝えたことを。
「いくらでも付き合うさ!なあ親友!」
「ああ、付き合ってくれ。この傷は深手だ」
豪快に笑うハルトがシェルドの肩を組むと、彼もまた笑った。




