友人とのひととき
サリーナさんとの相談を終えた翌日の夕方、私はベレッカの部屋で椅子に座りお茶を頂いていた。
日中、パン屋さんで仕事中のベレッカに仕事終わりに話しがあると伝え、仕事が終わると二人でベレッカの部屋へと向かったというわけ。
「仕事終わりに悪いわね」
「いいのいいの!それでどんな用なの?」
「……好きな人がいるのよね?上手くいってる?」
「ええ!離婚が成立して一年は結婚できないのがもどかしいくらいラブラブよ!」
「そう……」
大きな青い瞳がキラキラと輝き、金髪のポニーテールがブンブンと揺れる。
なんとも幸せそうね。
「ライラ、もしかして……好きな人でもできたの?」
「うーん……たぶんそうなんだと思う……」
「何よ、はっきりしないわね?」
「だって今まで人を好きになったことなんてないんだからしょうがないじゃない」
「初恋もないの!?」
「それが特にないのよね。いつも習い事で忙しかったし、同じくらいの貴族の子には嫌われていたしね」
「なんてもったいない……でもでも!今は違うのよね!?それで相手の人のことどんな風に思ってるの!?」
「優しくて立派な人かしら」
「違~う!そういうのじゃなくて!ずっと一緒にいたいとか大好きとかあるでしょ!」
「む、難しいわね……でもそうね、一緒にいてくれたら、嬉しい、かな?」
なんだかとっても顔が熱い。
急にどうしたのかしら?
「あらあらまあまあ!その人のこと大好きなんじゃない!」
「そ、そうかしら?」
ベレッカにそう言われたおかげか、ますます顔が熱くなってきた。
私は落ち着くためにお茶を飲んだ。
温くなった紅茶がほんのりとした甘さとともに喉に流れていく。
そんなとき、
りんりーん。
呼び鈴が鳴った。
「はーい!」
ベレッカが入り口に向かい、ドアを開く。
すると、
「遅くなってしまいました!」
訪問してきたのはローリィだった。
「大丈夫大丈夫。まだ始まったばかりだから」
見慣れた白いベレー帽に丸眼鏡。
艶やかなエメラルドグリーンの髪を片側でお下げにしているのは相変わらずね。
彼女にも声をかけており、レッスン終わりで相談に乗ってくれるということだった。
忙しい彼女には声をかけないでおこうかとも思ったけど、やはり聞いてほしい一人だと思ったので声をかけていた。
「ごめんなさいね。忙しいと思ったのだけどローリィにも聞いてほしくて」
「もちろんです!ライラック様のこととなれば何があろうとも飛んでまいりますので!」
「あ、ありがとうね」
鼻息荒く近くまでやってくると、両手で私の右手を包んだ。
「光栄です!」
「はいはい、そこまで。ローリィはそこの椅子に座って。私はベッドの上に座るから」
「わかりました!それでご相談というのはどういったことでしょう!?」
私とローリィが向かい合い、私の後ろにあるベッドの上にベレッカが座ってすぐにローリィが聞いてくる。
「ローリィは人を好きになったことはある?」
「それはもうライラック様を始めお友達にファンの皆さんと好きな人ばかりですよ!」
「違う違う。そういったことじゃなくて恋人にしたいといった好きね?」
ローリィの答えにベレッカが訂正する。
「恋人ですか?そういう意味で好きになったことはもちろんありますよ?無い人なんているんですか?」
……悪気ない言葉が胸に来る。
「はい!無い人がここにいまーす!」
ベレッカが私の肩にポンと手を置く。
「えっ!?そうなんですか!?ごめんなさい!」
「いいのよ。それでどんな人だったの?」
「私の歌を最初に好きって言ってくれた人です。ずっと片思いしてましたけど、違う人とお付き合いしちゃいました……」
「そうだったの……」
「今でも後悔しますね。ちゃんと好きだって伝えておきたかったです。たとえ断られるにしてもそっちのほうがスッキリしていたと思うから」
ローリィは少し寂しげに微笑んだ。
「……今でも好きなの?」
「そうですね。好きという感情があの頃のままなので、好きだとも言えるかもしれません。ですがそんな想いも含めて良い思い出になっています」
「よしよし!いい子だねローリィは!」
「や、やめてくださいよぉ!」
にっこりと笑ったローリィの頭をベレッカがわしわしと撫でる。
そんなやり取りが楽しくて私も笑った。
ふと、窓の外を見てみれば街はすでに暗くなっている。
伝えられた想い、はっきりとさせないと先に進めない、か……
セイクリッド様、サクリッド様、シェルド。
伝えましょう。
私の想いを。
「ありがとう二人とも。おかげさまで決心がついたわ」
「そう?なら良かったわ」
「えっと、どういうご相談だったのかよくわかりませんが……?」
「私に好きな人ができたのかもっていう相談よ」
「えぇ!?誰ですか!?」
「私も聞きたいわね!」
「……秘密」
私はそっと口に指を当てて、微笑んだ。
「白状しないかぁ!」
「そうですよぉ!」
「こ、こら!やめなさい!」
ベレッカが背後からローリィが前から羽交い締めにしてくる。
「このこの!この三人に秘密なんて無しだからね!」
「はい!そうですとも!」
「ふふふ……もうちょっとだけ待ってね?ちゃんと話すから」
「約束よ?」
「約束ですから!」
「ええ、約束」
私たちは人差し指を立てて、触れ合わせた。
ありがとう。
私と友人になってくれて。
私は二人の笑顔を見て、幸せな感情に包まれていった。




