日常から未来へ
ここ一週間、特に何ごともない日々が続いていた。
いつも通りに書類作業をし、街を見回る毎日。
そんな当たり前でなんでもない日々が続いていくと思っていた、のだけど……
「君からの答えを聞きたい。私にはもはや待てる時間がないのだ」
急に訪れたセイクリッド様に、私はそう告げられたのだった。
「……そうですか」
ただただ真剣な表情で私を見つめてくるセイクリッド様を見て、もはや誤魔化すこともできないと悟る。
ならばすぐに断ればいいだけのこと。
だというのに、その言葉はうまく口から出てこない。
もしかしたら私は……
「いろいろと整理したいことがあります。私の答えは会談で陛下とともにお伝えさせていただけませんか?このお願いが最後とさせていただきますので」
「……わかった。その日が来ることを、そして良い返事がもらえることを期待しておく」
「ですが、セイクリッド様。本当に私でいいのですか?」
「いいや、君がいいのだ。初めて君と出会った日からそう望んでいたのだから」
本心からの答えだと分かるほどに、スムーズに出る言葉。
その言葉で私の顔は熱くなった。
「い、いや、今のは……うん。偽らざる私の答えだ」
私の反応に少し動揺したセイクリッド様だったが、すぐに優しく微笑んだ。
嘘や綺麗事で飾られていない言葉が、私の心臓の鼓動をどんどんと早くしていく。
だけど、こんなにも心地よい鼓動は初めてのことだった。
「それでは私はこれで」
「もうですか?」
セイクリッド様が来てから三十分も経っていない。
「これ以上は……私の心臓が持ちそうにないからね」
彼はそう言うとにこりと微笑んで胸を押さえた。
「……わかりました。それではまたいつもの場所で」
「ああ、また」
そうしてセイクリッド様の来訪は終わった。
「姉様!」
彼が去った後、ハオルがすぐに入ってくる。
その大きな声に気づかずに私はただ呆けていた。
「姉様ってば!」
ガクッガクッ!
ハオルに思い切り身体を揺らされてようやく我に返る。
「どうしたの?ハオル?」
「ボクを同席させないなんて、どんなことを話したの!?」
「……求婚の答えを聞きに来られたわ」
「そ、そんな……」
私の答えにハオルは雷にでも打たれたかのように、立ち尽くした後フラフラと腰を落とす。
だけどすぐに立ち上がるとこう言った。
「姉様は断るよね!だって、この街を愛しているんでしょう!?」
私はその言葉にすぐに返事をできない。
それがハオルに何かを悟らせてしまったみたい。
「そんな……やだよ……姉様……」
ハオルは年甲斐もなく、大粒の涙をこぼした。
「一緒に……この街で過ごすって……そう思っていたのに……」
「私は、この街が好き。そしてハオル。あなたのことも好きよ」
「だったら……!」
「ごめんなさい。これ以上は今の私には答えられないの。だから見守ってくれる?あなたが私の一番の理解者なのだから」
「……姉様のお願いなら」
「うん。お願い」
「わかり、ました……」
「ありがとうハオル。大好きよ」
ハオルは涙を拭い、私と良く似た顔を綻ばせた。
また一つ、大きくなったようにも見える弟に私も嬉しくなるのだった。




