サルドエッジ伯爵からのお手紙
[オーディン]への訪問から三日が過ぎた頃、ある手紙が私の元に届いた。
封蝋はサルドエッジ伯爵家のもの。
息子の報復……なわけないわよね?
どういったご用件かしら?
私はペーパーナイフで封筒を切り、中身を取り出した。
ライラック殿。
本来ならば直接お会いして言わねばならんことだが、貴殿はそれを望まないだろう。
なので手紙で伝えさせてもらう。
本当にありがとう。
何の仕事をしても腑抜けだった息子が、ついにやる気を見せていると聞いた。
これはオーディンの護衛として紛れ込ませている部下からの言葉だが、女性へ優しく接することを心掛け、仕事仲間には今までの無礼を謝ったという。
それもこれもライラック殿に叱られてからだ。
しっかりと教育してきたつもりだったが、あんな風に育ってしまった息子でも親としては可愛いものだ。
そんな息子が真っ当に生きようと立ち直ってくれたことには感謝しかない。
今度また、オーディンに向かうことがあれば会ってやってほしい。
貴殿を尊敬するようになったらしいのでな。
難しい立場であることは知っているが、私は貴殿という存在は必要不可欠だと思っている。
居心地の悪い社交界ではあると思うが、今度パーティーに出席した際には改めてお礼をさせてほしい。
ライラック殿、万感の感謝を込めて。
ありがとう。
シュナイゼル・サルドエッジ
「本当に生真面目な方ね。こんなに丁寧な手紙をいただくほどのことをしたわけじゃないのに」
私はその大げさな礼状に少々困ってしまった。
でも、人から認めて褒めてもらうということは嬉しいものね。
レミゼラルムーン家の立場上、社交界ではあまり良い目で見られていない。
なので、こうして理解者が増えてくれると心から嬉しいく思える。
それに……
「結構渋めでいい男性なのよね……」
別におじさん趣味というわけではないけど、落ち着きがあり包容力のある方なのよ。
そう考えてみれば、殿下やサクリッド様、シェルドも少し子どものように思えてしまう。
でも彼らが歳を取ると、素晴らしい男性になることは間違いないでしょうね。
選べるような立場ではないと思うのだけど……贅沢な悩みだわ。
まあそれは一旦置いといて、伯爵にお返事を書くことにしましょう。
そして書いた後には、オーディンへ行ってみようかしら。
そうして職務を済ませた後、午後七時。
私とハオルはオーディンの店舗前へとやってきた。
「またこの店ですか……」
「シュナイゼル伯爵から息子を見てやってくれというお手紙頂いたんだから仕方ないでしょう?」
「そんなこと言って、お酒が飲みたいだけじゃ……?」
「ハオルも好きでしょう?」
「別に好きじゃありませんよ。姉様が飲むから付き合っているだけです」
私はハオルの態度にカチンと来た。
「じゃあ飲まなくていいわよ」
「ああ、姉様!好きです!ボクも一緒に飲ませてください!」
「そう?そこまで言うならいいけど?」
せっかく高いお酒を飲むなら楽しんで飲んでもらいたいものだわ。
「さて、お店に入るとしましょうか」
「はい」
ハオルがお店の扉を開く。
あれからたったの三日。
それでも息子は変わったという。
男子三日会わざれば刮目して見よという言葉があるけれど、どう変わったのかしらね。
見させてもらいましょうか。
夜の闇に室内の照明がこぼれ、私たちを照らしていった。




