情報源サリーナ
「サリーナさんじゃないですか?どうしたんですかぁ?」
「ふふっ、ライラック様にご挨拶しようと思ったの」
挑戦的なシャーリーの言葉をにこやかに受け流すサリーナさん。
若さと熟練との対立といったところかしら?
「ごめんなさいね?シャーリーちゃんとシャロンちゃん。ちょっとだけサリーナさんとお話ししたいの。離れてもらっていいかしら?」
「は、はい」
「えぇ?なんでですかぁ?」
「シャーリー?お客様の言うことに理由を求めてはいけませんよ?」
自分の身体を私の身体に擦り寄せるシャーリーに、軽いお説教をしたサリーナさん。
「ほ、ほらお姉ちゃん……行くよ?」
「むぅ……またあとで呼んでくださいね?」
「わかったわ」
名残惜しそうなシャーリーが席から立ち上がると、二人は頭を下げてテーブルから離れていった。
「騒がしい娘ですみません」
「いえいえ、ああいう活気のある娘がいれば楽しいのではないですか?」
「ふふふ、負けられないと思ってしまいますね。シャロンも接客はまだまだですけど軽食を作ってくれる腕は素晴らしいものです。あとで召し上がってみてはいかがですか?」
「それは楽しみだわ」
私たちは何気ない話をしていく中でグラスを置くと、氷がカランと鳴った。
「それで、何か情報はありますか?」
身体と身体が密着するほど近づいた私はサリーナさんに問いかける。
「そうですね。近ごろ良く来られる方が羽振りの良いことに違和感を持ちました。彼は建設省の役人ですが、それほど高官というわけではありません。なのにお金の使い方がずいぶんと様変わりいたしまして」
「どのくらい変わりましたか?」
「今までは金貨五枚ほどのお支払いでしたが、最近は金貨五十枚ほど遊んでいかれます」
「うーん……黒っぽいわね……」
公務員が急に羽振りが良くなる理由。
それは汚職が考えられるが、カジノで一儲けした可能性もある。
もう少しで定例会だ。
ここは陛下に報告して、調べてもらいましょうか。
「それでその方のお名前は?」
「ゲレンド・アレンディア男爵です」
「最近代替わりした男爵家ね。亡くなった一人息子の孫が継いだと聞いたけど、どういった人物かしら?」
「甘やかされたお坊ちゃんですね。今まで仕事をしたことがなく、こちらでも行儀正しくはないですね。ただ他のテーブルのお偉い様の顔を見てからは、自分のテーブルだけで女の子に大きな態度を取るようになりました」
「小物ねぇ……でもそうなると受け継いだ男爵の資産から豪遊している可能性も出てきたのかしら?」
「どうでしょうか?アレンディア家はそこまで裕福というわけではなかったように思えますが……」
「まあ建設省の中間管理職の立場ですもんね?わかった、調べてみせるわ。ありがとうございます」
「いえ、お力になれれば光栄です」
固い話も終わり、ここからはプライベートタイム。
サリーナさんに甘えちゃおうとしたところ。
「おい、サリーナ。俺が来たんだから俺の席に着けよ」
黒服の静止を振り切ってやってくる男がいた。
年の頃は二十代前半。
サラサラとした茶色の髪と鷹のように鋭い目。
パッと見た印象では顔の良さに目がいくだろうが、その視線の奥には人を見下す色がある。
「これは、ゲレンド様。申し訳ありませんがこちらのテーブルには先ほど着たばかりでして。もうしばらくお待ち下さいませ」
「客?ふん……誰かと思えば汚れものの名ばかり伯爵様じゃないか?ここは貴様が来るような場所じゃないんだよ。さっさと出て行け。酒が不味くなる」
「貴様!」
「まあまあハオル。別にいいわよ。言わせておけば」
「しかし……!」
「だけど一つだけ言わせてもらおうかしら?もう少しだけ、礼儀を覚えなさいな?お坊ちゃん?」
「なんだと!?」
「そんな大きな声で話すものだからこの場にいる方々に、あなたの幼稚な言動がまる聞こえよ?恥ずかしくないのかしら?」
「くっ……」
結局大物ぶっていても他の権力者の前では小さくなる。
ありきたりなお坊ちゃんだこと。
「まあ、もおお酒を飲む気分でもなくなったし帰らせてもらうけど。あとはお行儀良く飲むことね?お坊ちゃん?」
「……」
罵詈雑言を言いたいことは顔を見ればわかったが、我慢するだけまだ大人かな?
まあいいわ。
「サリーナさん。お会計を」
「かしこまりました」
私が席から立とうとすると、ゲレンドは吐き捨てるように他のテーブルに向かっていった。
そして、
「ライラック様!もう帰っちゃうんですかぁ?」
「ええ、ごめんなさいね。店を騒がしくして」
「そんなことどうでもいいです。……もっと売り上げが上がると思ったのに」
うんうん。ブレない娘だこと。
「ライラック様、ハオルシア様。本日はありがとうございました。特にハオルシア様……私、頑張りますので!」
「あ、ああ……頑張りなよ」
「はい!」
おやおや?なんだかいい雰囲気じゃない。
シャロンちゃんとハオル。
いい出会いがあったようね。
そうして私たちは結構な料金を支払い、店を出た。
「姉様、どうなさいますか?」
「うーん……あまりにも小物のようだけど、税金で遊んでいるのだとしたら悪党と言って過言じゃないわ。徹底的に調査して、陛下に潰してもらいましょうか」
「かしこまりました」
さて、お仕事頑張るとしましょうか。
私はほろ酔いのいい気分でナディアスの街を歩いていった。




