ハオルの遊技場デビュー
遊技場『フリーダム』は、ナディアスでトップのカジノである。
置かれているゲームはポーカー、バカラ、ルーレット、ブラックジャックといったメジャーなものはもちろんのこと、多種多様なゲームを取り揃えており、収容人数は軽く千人を超す巨大施設だ。
そんな場所へ視察に訪れた私は店内から応接室へと案内され、そこで支配人と面会することになった。
「相変わらずの賑わいね」
「はい。おかげさまで連日繁盛させて頂いています」
三十代後半の支配人は、茶色の髪をオールバックで固め、黒服に身を包んでいる。
名前はレックス。
一見細目で穏やかなように見えるが、筋が通らぬことへの怒りは凄まじく、例え相手が貴族であろうともルールに従わない相手は容赦なく店から追い出す。
そんな彼は一従業員から支配人まで上り詰めた傑物だった。
「それで、ライラック様。本日は遊んでいかれますか?」
「私はいいわ。その代わりにハオルを遊ばせて欲しいの」
私は後ろに立つハオルへと手をやった。
「ハオルシア様ですか。成人を迎えてからは遊ばれたことがありませんから、興味がないのかと思っておりました」
「そうね。あまり興味はないようだけど、少しはこういったことも知っておかないとね?」
「ええ、良くも悪くも上流階級の娯楽であります。知っておいて損はないでしょう」
「そういうことよ。わかったわね?」
「わかりました……ですがボクはルールをまったく知りませんけど……」
「そこは私が教えてあげる。それじゃ遊びに行こうかしら」
私はウキウキで席を立つ。
「姉様、ご機嫌ですね」
「遊ぶときはめいいっぱい楽しく遊ばなきゃね?それができる人間の秘訣よ」
「さすがライラック様。わかっていらっしゃる」
私とレックスはお互いに視線を合わせた後、笑い合う。
そんな私たちを見たレックスは、良くわからないといった様子で肩をすくめた。
「チップに交換してくださる?」
「か、かしこまりました!」
レックスと別れた私たちは受付にて金貨の入った袋を渡し、チップへと交換してもらう。
「ハオル、あなたのお小遣いなんだから好きに使いなさい」
「金貨百枚分は多くありませんか?」
「弟のカジノデビューなのだから少し奮発しておいたわ」
「不健全だと思うのですが……」
「レミゼラルムーン家に不健全なんて言葉はないわ。パーッと遊びなさいな」
「はぁ……わかりましたよ……」
ハオルは少し堅物が過ぎる。
遊びを覚えることで欲に対する抵抗を緩和させたいものね。
「それで姉様?なにで遊べばいいんですか?」
「そうね。ハオルは初めてなのだから軽く説明しましょうか。あそこにあるテーブルはポーカー、五枚のカードで役を作りテーブルマスターと勝負をする。その間の駆け引きが楽しいのよね。勝負をするか否かはテーブルマスターとのチップのやりとりで決まり、お互いに勝負と決めたときに手札をオープンする。そこで勝敗が決まるわ。相手の手札の方が強そうだと思えば降りることも可能。ただし相手の強気は嘘という可能性もあるわ。ハオルにその駆け引きができるかしら?」
「ふむふむ。それで手役とは?」
「強い順から全ての絵柄が同じでエースから十までが並んだロイヤルストレートフラッシュ。次に同じ絵柄の並んだものがストレートフラッシュ。次が三枚の同じカードと二枚の同じカードがフルハウス。同じ絵柄で揃えたものがフラッシュ。絵柄は別でもいいから数字が並んだものがストレート。三枚のカードを揃えたものがスリーカード。ペアを二つ作ったものがツーペア。そしてペアが一つでワンペア。そしてなにもそろっていないのが最弱の役無しね。あと同じ役でもエースが最強のカードでエースのスリーカードとキングのスリーカードではエースの方が強い。だいたいこんなところね」
「わかりました。ではやってみましょうか」
「あら、ポーカーから始めるの?」
「せっかく説明していただきましたので、やってみようと思います」
「そう、じゃあテーブルに行きましょうか」
テーブルは五人掛けのものが六組あるが、他が満席なのに一つだけ誰も座っていないテーブルがあった。
「では、あちらに向かいましょう」
私はそのテーブルに近づくにつれて、なぜ空席なのかがわかった。
テーブルマスターがポーカーマスターとも言われる老練な人物だったからだ。
「これはこれは、ライラック様と弟君。遊んでいかれますかな?」
「弟が遊ばせてもらうのだけど、初めてなのでお手柔らかにお願いね?」
「ホッホッホッ、かしこまり……」
「いいえ、手を抜くことは結構。全力で勝負してください」
「……これはこれは、失礼。弟君も勝負師であられた様子。この老骨、全力で受けて立たせてもらいましょう」
ハオルの意外な一面を見た私は笑ってハオルの後ろに立った。
これは、良い勝負が見られそうね。
楽しみだわ。




