意外な素顔
「ごきげんよう。リア嬢」
ボクはリアに丁寧な挨拶をする。
「セイクリッド様、なぜダンスをご一緒してくださらないのですか?」
だが、清々しいほどに無視された。
このバカ女……
怒りが頂点に達しそうなとき、背中をさすられる。
アイリスがボクの心境を察したようで撫でてくれていた。
おかげで怒りの具合が下がっていく。
命拾いしたな?バカ女め。
「……レディの前で恥ずかしい話はしたくなかったのだが、剣の訓練中に足をひねってしまってね?この足ではダンスは無理なのだよ」
嘘だな。
目が泳ぎまくっているし、手の動きも慌ただしい。
こんなの信じるやつがいるのか?
「そんな!大丈夫なのですか!?」
いたよ。
単純バカ女。
ボクは姉様の言葉を思い出した。
リアは悪い娘じゃないわよ。
自分の感情に真っ直ぐで素直な娘。
可愛いじゃない?子どもみたいで。
姉様は包容力があり過ぎです。
ボクにはそうは思えません。
「そ、そうだな……歩く分には問題ないのだが……」
「そのような足で私の誕生パーティーに来てくださるなんて……私、愛されているのですね……」
ポッと顔を赤らめるリアに、周囲の取り巻きたちも騒ぎ立てる。
「お嬢様、良かったですね!」
「流石です!」
「おめでとうございます!」
「い、いや……そういったことではないのだが……」
セイクリッドは小さな声でつぶやくのだが、もちろんそんなか細い声は彼女たちに届くわけがない。
オロオロしているセイクリッドを眺めるのもいいけど、さっさと帰りたい。
なので用件を終わらせて帰ることにしよう。
「リア嬢?プレゼントをお渡ししてもよろしいかしら?」
「あなたが私に?」
いいから黙って受け取れ。
そう言いたいところだけど、姉様の姿でそうは言えない。
なのでにっこりと微笑むだけにした。
「ふふん。受け取ってあげてもよろしくてよ?」
この袋を投げつけてやりたい。
だけど姉様からの預かりものなので我慢我慢。
ふぅ……ストレスが半端ない。
「では、こちらでございますわ」
「あなたのセンスで私を喜ばせられるとは思いませんけど、開けてもよろしいかしら?」
「もちろんですわ」
憎まれ口を叩きながらも意外な言葉を贈られる。
姉様が言っていたのはこういうところだろうか?
ペリペリペリ。
包装紙を丁寧に開き、中のケースを取り出すとパカッとケースを開いた。
すると、
「こ、これは、宝石鳥の羽のセンス……?」
リアが驚きの声を漏らした。
「ええ、リア嬢に似合うと思いましたので」
「ですが、これは金貨百枚は下りませんわ……こんなものいただけません……」
姉様、プレゼントにしてはいささか高額ですね。
だけど、リアが断るとは思っていなかった。
ここは姉様になりきって、受け取らせてみせる。
「いいえ。受け取ってくださいな。お友達へのプレゼントを返されると、悲しい気持ちになりますので」
「私が、お友達?」
「ええ、私はそう思っています。あなたは違いますか?」
「ふん……お友達だなんて図々しい。せいぜい顔見知りくらいなものですわ」
ふふふ……もう慣れたもんね。
いちいち反応してやらん。
「だけど、贈り物は頂いておきます。ありがとうございますわ。ライラック様」
よほど嬉しかったのだろうか?
センスをギュッと抱きしめると、にっこりと微笑んだ。
いつもの意地の悪そうな笑顔ではない、素直な笑顔。
それを見て、姉様の気持ちが少しわかった。
「おほほほ!このきらびやかな扇子!高貴な私にぴったりでしょう?」
「良くお似合いです!」
「まさしくお嬢様にぴったりです!」
「眩しいくらいですよお嬢様!」
やっぱりそうやって高飛車なお嬢様をしてくれていた方が、こちらとしても助かる。
「それではセイクリッド様?私が足を支える杖となって差し上げますので、隣にどうぞ?」
「け、結構……」
「はい殿下!失礼いたしますよぉ!」
取り巻きの一人が、背中を押すことでリアとセイクリッドが接触する。
「それではライラック様?私は他の客人への挨拶がございますので、これで失礼いたします」
「ええ、本日はおめでとうございます」
「おほほほ!感謝いたしますわ!このあともゆっくりお楽しみなさってくださいな!」
「リ、リア嬢?意外に力強い!」
セイクリッドもまたリアとともに人混みの中へと消えていった。
こちらに向かって絶対に余計なことを言うなよ!と口を動かして。
言うに決まってるだろ?バカ王子め。
「これで目的達成ですね。すぐに帰りますか?」
「いや……」
ここからでもリアが扇子を持って、嬉しそうに来賓と話している姿が見えた。
「もう少しだけ、いるとしよう。姉様にプレゼントをもらったリアの様子を話してあげたいからな」
「うふふ、承知しました」
こうして思ったよりも長居したパーティー会場で、アイリスとともに食事と音楽を楽しませてもらうのだった。




