セイクリッドをからかうライラック(ハオルシア)
「そして本日は娘のために特別なゲストが来てくださっています。セイクリッド殿下!どうぞ!」
バルザーク伯爵が壇上から呼びかけると、舞台袖のカーテンからセイクリッドが現れた。
やだなぁ……あいつがいるのか……
変装がバレることはないと思うけど、会わないようにしようっと。
「本日は、素敵なレディの誕生パーティーに招かれたことを嬉しく思う。私も心からの祝福を贈ると同時にプレゼントを渡させてもらおう」
セイクリッドがそう言うと、黒服の男が舞台袖からやってくる。
「ではリア嬢?こちらへ来てもらってもいいかな?」
「はい」
リアは壇上の中央に立っているセイクリッドの元へと向かう。
「背中を向けて」
リアは黙ってその言葉に従うと、こちらを向いた。
「お誕生日おめでとう」
そしてセイクリッドはリアの首にネックレスをはめた。
青い輝きを見るにサファイアのようだ。
「ありがとうございます!セイクリッド様!」
自分の首に下がるネックレスを見たリアは感激のあまり、セイクリッドの腕に抱きついた。
「リ、リア嬢、レディが軽々しく身を寄せてはダメではないか?」
「いいではありませんか?婚約者候補でもあるのですから」
「ははは!気が早いぞ?我が娘よ。殿下が困っていらっしゃるではないか」
「もう、お父様ったら」
セイクリッドは慌てた様子で壇上からこちらを見てくる。
どうやらボクのことに気づいていたようだ。
なんだかこれは違うんだと言っているように首を振っていたので、ボクは悲しげに視線を反らしてやった。
ふふん。どんな表情をしているかな?
チラリと再び壇上に視線を戻すと、がっくりと肩を落としていた。
いい気味である。
「それでは殿下からの祝辞もいただけたので、これをもちパーティーの始まりとさせていただく!皆様演奏にダンスに食事と、心ゆくまでお楽しみくださいませ!」
バルザーク伯爵の言葉が終わると同時に、壇上に楽団がやってきて演奏を始めた。
さてと、あとはさっさとプレゼントを渡すだけなのだけど、リアは主役ということで周囲を人々が取り囲んでいる。
あの人混みに並んでまでプレゼントを渡しにいくのは、姉様のやり方ではない。
ここは時間がもったいないけど、しばらく様子を見よう。
「アイリス。喉が渇いたわ」
「あっ、はい。飲み物を取ってきますね」
「あちらには料理もあるし、あなたも好きなものを取って来なさい」
「わかりました。お嬢様はどうなさいますか?」
「私は結構」
「かしこまりました」
アイリスをお使いに出し、周囲の様子を眺めていると、すごい勢いでこちらにやってくるセイクリッドの姿があった。
げっ、こっちに来るな。
そう思ったものの、セイクリッドは一直線にこちらに来る。
そんな様子を何ごとかと周囲の招待客が窺いだした。
「レミゼラルムーン伯爵」
「ごきげんよう、殿下。何かご用事でしょうか?」
「い、いや……その、先ほどの話だが……」
よし、バレていないな。
「何のことでしょうか?」
「リア嬢が婚約者候補という話は本当だが、まだ決まっていることではない……」
少し声のトーンを落とし、ゴニョゴニョと言い訳がましく話してくるセイクリッド。
ここは存分にからかってあげよう。
「そのことが私に何か関係が?別にどのような女性と婚約なさろうがまったく、関係ありませんわ?」
ボクがそう言ってやると、セイクリッドは愕然とした様子で立ち尽くしていた。
ふははは!いい気分だ!姉様を狙うバカ王子め!
さらに追い打ちをかけてやろうとしたとき、
「お待たせしましたハオルシア様ぁ……ずいぶんと混んでて大変でしたぁ……」
よろよろとアイリスが帰ってきた。
しかも呼び名を間違えて。
「ア、アイリス?勘違いしていてよ?」
「えっ?……あははは!失礼いたしました!お嬢様!」
アイリスも自分の間違いに気づいたようで、慌てて訂正したが……
「……ハオルシア?」
セイクリッドは訝しげにこちらを見てきた。
じぃぃぃ……
「……殿下?そのように女性を見るものではありませんわ」
「そうだな。女性なら問題だな」
くっ……バレたか!?
「そうだろう?シスコン弟君?」
「誰がシスコンだ!」
「やはり貴様だったかハオルシア!」
「大きな声を出すんじゃない!姉様の代理で来ているのだから!」
ボクは小さく声を落としつつも、はっきりとセイクリッドに伝えた。
「ライラックはどうしたのだ?」
「姉様を呼び捨てするな」
「バラすぞ」
「……姉様は風邪で寝ていらっしゃる」
「なに!?重症なのか!?見舞いに行かなければ!」
「そこまでじゃない!近寄るな!」
こそこそと話している内に、セイクリッドは至近距離までやってきた。
これではあらぬ誤解を受けてしまう。
実際、好奇の視線が集まっているこの状況をなんとかしたいのだけど……
「楽しそうですわね?セイクリッド様にライラック様?」
そんなおり、取り巻きを連れたリアがやってきたのだった。




