姉様親衛隊、出発
「はぁ……美しい……」
「ハオルシア様!鏡をいつまでも見てないで準備をしてください!何のためにお嬢様に扮したのですか!?」
「はっ!そうだった!」
アイリスの言葉でボクは姉様の魅力から解き放たれた。
「もぉ……そんなんじゃ安心して送り出せないじゃないですか?」
「なに言ってるのかな?アイリスもついてくるんだよ?」
「……はぁ?」
「ボクが一人で行く分には問題ないけど、姉様が従者もなしに一人で行くのはおかしいよね?」
「ま、まさか……」
「そう。アイリスが従者としてボクについてくるんだよ。メイドの姿じゃあれだから男装してね?」
「嫌ですぅ!貴族のパーティーなんて息が詰まるとこなんて行きたくないですぅ!」
「これは当主としての命令よ?アイリス?」
ボクは姉様の声でアイリスに命令する。
「はぁん!声までそっくりになられた!?」
「このくらい当然でしょう?それでどうするの?私の命令を無視するというのかしら?」
「うぅ……!行きますよ!行けばいいんでしょ!」
「いい娘ね。アイリス」
「こんなの反則ですよぉ……」
こうしてボクの自室で少し前の頃の黒い従者服をアイリスに着てもらうことになった。
「似合っているわよ」
「うぅ……恥ずかしいです……」
長い銀髪はポニーテールにまとめ、少年のように扮したアイリスは可愛らしい。
変態的な貴族に目をつけられないようにしないとね。
「それじゃ行くわよ」
「うぅ……わかりました……」
ボク達は部屋から出ると、玄関ホールへと向かう。
すると、ゼオンが驚いた様子を見せた。
「お嬢様?風邪の方はもうよろしいので?」
「ええ、問題ないわ」
ゼオンまで欺くことができれば完璧だ。
そう思ったのだけど、
「ふぅ……ハオルシア様でしたか」
見破られてしまった。
「どうしてバレたのかな?」
「そうですね……雰囲気と申しますか。言葉にすることは難しいですな」
「他の者にも見破られるだろうか?」
「いえ、それは難しいでしょう。私でもお嬢様が熱で寝込んでいるという前情報があって判断できたのですから」
「ゼオンがそういうなら安心かな」
「それにしてもなぜお嬢様に変装を?」
「姉様がパーティーを休んで軽んじられるのが嫌だったから」
「なるほど。納得です。アイリスも良い経験になるでしょうから、楽しんでいらっしゃい」
「楽しむことなんかできそうにないですよぉ……」
「レミゼラルムーン家のメイドがなにを弱気なことを。社交界での振る舞いはちゃんと学んでいるでしょう?自信を持ちなさい」
「わかりました……」
「返事が小さいですよ?」
「わかりました!」
「よろしい」
どうやらゼオンのおかげでアイリスの覚悟も決まったようだ。
「それじゃ姉様の名誉を守るため。アイリス、優雅に行くわよ?」
「かしこまりました。お嬢様」
アイリスは胸に手を当てて、一礼をする。
「それじゃゼオン。姉様のことをよろしく頼む」
「お任せください。それではお気をつけて」
ギギギィィィ……
玄関の扉がゼオンによって開かれた。
姉様の代わり、立派に勤め上げてみせます。
ボクとアイリスは屋敷を出ると、馬車を繋いである厩舎へと向かう。
「アイリス、運転は覚えているわね?」
「乗り心地はあんまり期待しないでくださいね?久しぶりなんですから」
「事故をしなければいいわ」
「うぅ……プレッシャーですぅ……」
いつもの黒薔薇の馬車。
ボクはその車体の方に乗ると、アイリスは御者席に乗った。
「ええと……進ませるのはこうで……止めるのはこうで……」
ブツブツと聞こえる文言が怖い。
だけどここは任せるしかない。
「いきますよ!はいぃ!」
ヒヒーン!
アイリスの気合いの声とともに、馬車はゆっくりと走り出した。
それはもうゆっくりとゆっくりと……
一方、その頃。
主人公はというと。
すやぁ……
幸せそうに眠っているのだった。




