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忌み嫌われる夜の令嬢ですが国家の中枢を担っています  作者: think


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影動く

「……風邪を引いたわね」


退院してからというもの、すっかり元気になったと思って溜まりに溜まっていた仕事を片付けていたある日。

昼頃に目覚めた私は体調の悪化を把握した。

喉の痛みに頭痛。

典型的な風邪の症状である。


「いいですか?当分は身体を労ってくださいね?精神的には元気かもしれませんが、免疫力が落ちている可能性がありますので」


今になってお医者さまの忠告が身に沁みるわね……

それにしても、よりによって今日かぁ……


今日はリア・バルザーク伯爵令嬢の誕生日パーティーがある。

いつも私に可愛いちょっかいをかけてくれる楽しい娘なのでお祝いさせてもらいたいのだけど……急遽欠席かしらね……


仕方ない。

代理としてハオルにプレゼントを持っていってもらおうっと。

サクリッド様にプレゼントのことで相談し、異国関連の商品で良いものを見せてもらって購入した扇子。

希少な宝石鳥と呼ばれる鳥の翼を集めて一枚一枚綺麗に重ねた一品で、まるで宝石のようにキラキラと輝く扇子は派手好きなリア嬢も満足してくれると思う。


どんな嫌みを言われながら受け取ってもらえるか楽しみにしていたのだけれど、残念だわ。


「ゴホゴホ……ということで代理として出席してくれるかしら?」


アイリスにハオルを呼んでもらい、私はベッドに横になりながら状況を説明した。


「それは大丈夫ですけど、姉様がバカにされたりしませんか?」


「まあされるでしょうけど、病気でお邪魔するわけにもいかないでしょう?」


「確かに姉様の身体は大事ですが、名誉を汚されるのも腹が立ちますね……」


「いいのいいの。嘘で欠席するわけではないし、私は気にしないから」


「ですが……!」


「うぅん……悪いけど声を出すのもだるいのよね……少し眠りたいから、パーティーはよろしくね」


「……かしこまりました。お休みなさいませ」


こうして私はハオルに後のことは託し、睡眠を取ることにした。


お休みなさい……



───その後、ハオルシア視点───


あっという間に眠られてしまった……

よほど体調が悪かったのだろう。

退院した後ももっと気を配るべきだった。


ボクは眠る姉様の顔を見て憤る。


それにしてもリア嬢の誕生日か。

何度か会ったことはあるが、姉様にしつこく絡んでくるやつだった。

これで姉様がパーティーを欠席でもしたら、勝ち誇ったように逃げた、なんて言い出すに決まっている。

そんなことは絶対に言わせたくない。

ならば……


「やるか……」


ボクは決意した。


「アイリス、着替えを手伝ってくれないか?」


「はい?私がですか?」


廊下を掃除しているアイリスを見つけたので、ボクは用件をさっと伝える。

だけどアイリスは首を傾げて、ボクの意図を理解できていないようだ。


「姉様のドレスをボクに着させてほしい」


「そ、それってもしかして!?」


「ああ、姉様の影としてボクが成り代わる」


「それは構いませんが……お嬢様は許可しているのですか?」


「許可はもらっていないけど、アイリスは姉様がバカにされるのがわかっていて黙っていられるか?」


「黙っていませんとも!」


「なら、協力してほしい。君が協力してくれると助かるからな」


「わかりました!お手伝いいたします!」


さすが姉様第一のアイリスだ。

説得は簡単だった。


その後、二人で姉様の衣装室に向かい、そこでボクは下着を残して服を脱いだ。


「あわわわ……」


「どうしたの?早く着替えをしてほしいのだけど?」


「そ、そうは言いますけど、こちらも乙女ですので!男の子の裸なんて恥ずかしいんですよ!」


「……そう言われるとこちらも恥ずかしくなるから、手短にお願い」


「うぅ……頑張りますぅ……」


姉様の影となること。

これ自体初めてのことではないが、訓練以外では初めてだ。

初の実戦で緊張するが、姉様のことを一番わかっているのはボクで間違いない。

絶対になりきってみせる。


「えぇっと……今回はこのドレスにしましょう。胸元の露出を避けた清楚な黒ドレス。ハオルシア様にはぴったりだと思います」


「いろいろと複雑ではあるけどそれでよろしく」


胸元は露出できないのは仕方ない。

詰め物でごまかす必要があるからね。


「それじゃ着せていきますよ」


「うん」


「コルセット巻きますね……?」


「どうかした?」


「お嬢様よりも……ウエストが細い……」


「それは姉様には秘密にしておいて」


「わかりました……」


そうしておよそ三十分ほどの時間が経ち、ボクは姉様のドレスを着ることができた。

女性の準備というのは大変だと改めて思う。


「それじゃ次はお化粧ですね。ウィッグもかぶってもらって。はい、これどうぞ」


「ありがとう」


姉様の長い黒髪をかたどったウィッグを被る。

するとアイリスは驚きの声を上げた。


「わぁ、もうお化粧しなくてもお嬢様そっくりですねー?」


「いや、姉様はもっと綺麗だ」


「ううん……はっきりそう言われるところに尋常ではないお姉ちゃん愛を感じてしまいます……」


アイリスはそう言うと、パタパタとボクの顔に化粧をしていった。


まぶたに何かを塗られ、頬にも塗られていく。

そして唇に紅を塗られて、


「終わりました!うぅん!我ながら完璧です!」


完成したようだ。


ボクはゆっくりと瞳を開ける。


するとそこには……


「これが……ボク……?」


愛してやまない、姉様の姿があった。

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