シェルドへお返事する日
「お嬢様、シェルド様が来られました」
「そう……」
退院してから数日の時が過ぎ、いよいよこの日がやってきた。
告白のお返事するのって大変ね。
なんとも言えない気持ちになるわ。
「レミゼラルムーン伯爵、その後はご健勝に過ごされていらっしゃいますか?」
だけど、応接間へとやってきたシェルドは何食わぬ顔でそんなことを聞いてきた。
「そうね。すっかり普段通りにしているわ」
「そうですか。それは良かったです」
向かい合って着席してもいつも通りの会話。
なのにこちらは少し胸の鼓動が早い。
だというのに冷静なままのシェルドの様子に腹が立った。
あなたのせいでこの数日大変だったのに、なによそのいつも通りの顔は?あなたも少しは動揺して見せたらどうなの?
「どうかなさいましたか?少々視線が痛いのですが」
「あらそうかしら?気の所為ではなくて?」
「そうですか。なら本題に移らせていただきます。犯罪率は日々下落傾向にありますが、やはり週末のトラブル対応は現状維持といったところですね。犯罪というわけではないのですが、通報を受けての警士の出動回数は減っていません。その辺りのことでお話しを聞かせていただきたいのですが?」
「そうね。ある程度は仕方がないとは言ってもちょっとした揉め事が犯罪へと繋がってしまう可能性は排除できないわ。現場に赴いた警士にはお互いの主張をよく聞いて、その場で納得しあうことが望ましいわね。まあそれが一番難しいとは思うけど」
思うことはあれど、仕事の話となればこちらも普段通りに会話はできる。
こうして一時間ほど、話に集中し面会時間の終わりが近づいてきた。
「それではこれからは休憩ということで。プライベートな話をさせていただきたく思います」
来たわね……
「先日にさせていただいた提案ですが、どのような判断となりましたでしょうか?」
ふぅ……
「あなたの想いは嬉しかったわ。だけどごめんなさい。今はまだそういったことを考えられるほどの余裕がないの」
シェルドが嫌いというわけではない。
セイクリッド様やサクリッド様たちと同じで、今はまだ自由でいたい。
それが自分のわがままだとしても、それが偽らざる私の気持ちだった。
「そうですか。それでは待ちますね」
「……えっ?」
「今はまだ余裕がない。それは時が経てば私とのことを考えられる余裕ができるということでしょう?」
なんというポジティブさ。
まさかこういった考えをする人だとは思わなかったわ。
「あなたのことが好きじゃないと言われているとは思わないの?」
「それならばそう告げていらっしゃいますよね?」
……正解。
なんだかずいぶんと内面のことまで知られているようで面白くない。
「私は幸いにして長男ではないので、待つ時間はいくらでもあります。なのでライラック様に余裕ができるまで待たせていただきます」
「もしかしたらおばあちゃんになってるかもしれないわよ?」
「それからでも結構です。お互いに一つ屋根の下で暮らし、並んで墓地に入れたら私は満足です」
……ここまで愛されていると思うと、照れてしまうわ。
「なにもはっきりとしたことは言えないわ。それでも待つというの?」
「ええ、私のことを少なからず心にあるということがわかった今、例え望んだ結末とならなくても私は幸せです」
シェルドは素直に笑ってみせた。
それは偽りない本心。
「あなたって人は……本当に苦手な人だわ」
「そうですか?」
「ええ、何事にも真面目で真っ直ぐに自分の芯を持った人」
「そういった人物は嫌いですか?」
「好きよ。困ったことにね?」
「そう言ってもらえると、私は幸せです」
何も進展していないというのに、シェルドは微笑んだ。
とても無垢に。
……本当に困るわね。
そんなにも純粋な笑顔を見せられると、未来予想図が頭によぎってしまうわ。
彼がすぐ隣にいてくれる。
そんな光景が悪くない……いいえ良いと思ってしまう。
最初は苦手な人だと思っていたのに……人ってわからないものね。
私もまた笑った。
これからは、憂鬱だったこの時間が楽しみへと変わっていきそうだったから。




