シェルドの逆襲
昨日の騒々しいやり取りを思い出しつつ、私はベッドの上であることを考えていた。
恋愛かぁ……
セイクリッド様たちが訪れてからというもの、私はいつもため息ばかりついている。
貴族であるもの、血を繋ぐということの大切さはわかっているつもり。
だけど、恋なんて今までしたことがなかった。
同じ貴族の男子には忌み嫌われ、普通の男子たちからは敬われていたおかげで仲の良い男の子がいたことはない。
知識としては男女の交わりなどは教わってはいたけど、自分が相手に身を任すことなど考えたことがなかった。
私もお母様のように、恋する人が現れるのかしら?
わからない。
とはいうものの、セイクリッド様やサクリッド様の言葉に揺れ動いたのも事実。
セイクリッド様か……
少し頼りない部分はあるけれど、良い旦那様にはなってくれそうね。
ただ、王家とレミゼラルムーン家との関係を考えれば私とセイクリッド様が結ばれる可能性は限りなく低い。
そうなると、サクリッド様?
やり手の実業家で魅力的な方ではあるけれど、異国の方との婚姻もやはり難しいもの。
はぁ……結婚って面倒ね……
もう一生独身でいようかしら。
子どもはハオルに任せて。
なんてそんな押し付けるようなことはできない。
強引にでも私を奪いに来てくれる相手がいてくれたら……
そんな人なら、私も愛することができるのかな?
コンコン。
「どうぞ」
「失礼いたしますライラック様。面会の方がいらしました」
「あら、どちら様?」
「以前に来られました、シェルド様です」
「わかったわ。通してください」
「かしこまりました」
昨日面会に来たときは仕事の話をしないまま、追い出しちゃったからまた来たのかしら?
さて、お仕事モードに切り替えなくちゃ。
そんな風に私は気持ちを切り替えたのだけど……
「ライラック様」
シェルドが入ってくるなりいきなり名前で呼ばれると、
「私とお付き合いしていただきたい。どうでしょうか?」
いつも冷静な彼の顔は真っ赤に染まっていくのだった。
───前日、ライラックに追い出された後のシェルド───
殿下にサクリッド殿。
まさか、二人がレミゼラルムーン伯爵を愛していたとは……
彼は一人、自室で今日のことを思い返していた。
言えなかった。
私もお慕いしていると。
アプローチは前からしていたと思う。
仕事とは分けてちゃんとお名前で呼び、好意を伝えるために自分なりの褒め言葉を送っていた。
だが、遠回りをし過ぎていたようだ。
安全な道を通っていった結果、出遅れようとしている。
そんなことは嫌だ。
私は茨の道を進んでも、彼女を手に入れたい。
ならば……想いを打ち明けるまで。
───現在に戻り、ライラックの病室───
い、いきなりどういうこと?
シェルドが私に?
そんな様子を感じたことはなかったと思うのだけど……
私が戸惑っていると、シェルドはズイッとベッドの傍にまでやってくる。
そして、
「お返事をいただけませんか?」
強い調子で迫ってきた。
「そ、その……すぐに答えなんか出せないわよ……」
「そうですか……」
シェルドは少し寂しそうにするけど、すぐに表情を切り替えた。
「私はライラック様をお慕いしております。これは初めてお会いしたときからずっとです」
「そんな様子一切感じなかったのに!?」
「そうですか……自分では仕事の終わりにはちゃんと好意を伝えていたと思っていたのですが……」
そう言えば確かに彼の褒め言葉には、ドキドキとさせられていた。
あれって社交辞令じゃなかったの?
「そ、そうだったのね……全然気づかなったわ……」
「ライラック様は、もしや鈍い方ですか?」
「いつも同じ調子だったのにわかるわけないじゃない!」
「失礼いたしました。私の不甲斐ない態度のせいで。ですが私はもう安全な道を通ることはやめたのです。あなたを手に入れるために最短で一直線に進ませていただきます」
その言葉通り、彼は私を真っ直ぐに見つめてくる。
「えっと……あの……」
「はい」
「少しは私の気持ちも考えなさいよ!このおバカ!」
「失礼いたしました。それでは次の定例報告の場でお返事くださいませ。本日はお会いいただきましてありがとうございました」
シェルドは背筋を伸ばすと、綺麗な一礼をして病室から去っていった。
「も、もう……強引過ぎるでしょう……」
そんな言葉がこぼれるものの、私の心臓はドキドキとしてばかりだった。




