恋の戦場は知りません
「異国連合のサクリッド・シルヴァと申します」
「第一騎士団所属シェルド・リンブルクです」
「第三騎士団所属!ハルト・アークであります!」
病室に入ってきた三人はセイクリッド様の顔を見るなり、丁寧な自己紹介を始めた。
各々特徴があり、サクリッド様は慇懃に、シェルドは冷静に、ハルトは盛大に。
「ああ、それで君たちは伯爵とはどういった関係かな?」
「はっ。勤務する地の管理者であられるレミゼラルムーン伯爵様とは業務の立場の上で良きお取り組みをさせていただいている間柄であると思っております」
「ふむ。なるほど」
シェルドの言葉にセイクリッド様は納得したように頷く。
「私は伯爵のファンでございます!」
「……ファン?」
「はい!子どもたちの誘拐事件の折にすっかりと伯爵の義の精神に魅せられてしまいました!まさに正義のヒロインといったものですね!」
「……子ども向けにそういった演芸があるのは知っているが、君もそういうのを好むのかな?」
「殿下。正義に大人も子どももないのですよ?」
「……失言であった。すまない」
ハルトの直視に耐えきれずセイクリッド様は折れた。
「それで残るは、サクリッド殿かな?」
「私ですか?……そうですね。求婚をした間柄ですかね?」
にやりと微笑むサクリッド様にセイクリッド様は驚愕の表情を浮かべ、私を見てきた。
……何故今そんな話を持ち出すのよ。
ややこしくなるじゃない。
「そうですね。求婚はされましたがお断りさせていただきました」
「おや?私は保留中との認識ですが?」
「うふふ、そうですね。候補の方ではあるかもしれませんね」
肩をすくめるサクリッド様に、私は笑顔で返した。
「逆に聞かせていただきますが、殿下はライラック様とはどういったご関係なのですか?あまり王家とは仲が良ろしくないと聞いておりますが?」
「ぐっ……私と伯爵は……」
殿下、ここはいつも通りの対応でいくのですよ?
忌み嫌う相手だ、と。
私の視線に気づいたセイクリッド様は強い瞳で頷いた。
どうやら通じたよう……
「私はライラックを愛している!好きだとも伝えてあるしな!」
まったく通じてなかった。
真っ赤な顔でそんなことを言ったせいで、ベレッカとローリィも顔を赤くして抱き合ってしまっている。
「ほ、ほう……それでライラック様はどう答えたのですか?」
「うっ……それは……」
言ったそばから帰っていったから何も答えてないのよね。
そのおかげでセイクリッド様は何も言えずにこちらをチラチラと見てくる。
「そう言われて、嬉しい部分はありましたが……今はまだそういったことは考えられません」
「うぅ……ライラック……」
「ふふふ……どうやら殿下もまた同じ位置のようですね?」
「何を言う!?百歩は先にいるわ!」
「いいえ!せいぜい五十歩というところですね!」
「……」
「ライラック様!今回もサインをお願いします!歌姫救出!との言葉も添えて!」
まさに五十歩百歩の会話が目の前で繰り広げられている。
そんな状況の中、冷静な表情で佇むシェルドにもまたまたサインをねだってくるハルトにも腹が立ってきた。
「静かに!」
私の言葉によって室内は静寂に包まれていく。
「ここはいち令嬢の病室です。殿方が騒ぐのはどうかと思いませんか?」
「うっ……すまない……」
「申し訳ありません……」
「私は静かにしていましたが?」
「はしゃぎ過ぎました……」
一人空気の読めない者がいるけど無視よ無視。
「それでは今日はお帰りになってくださる?あとは女性だけでのおしゃべりがありますので」
「「「……はい」」」
「それでは失礼いたします」
三人がトボトボと歩いて行く中、シェルドだけは背筋を伸ばして去っていく。
まったく……困った人たちだこと。
ようやく静かになったと思った矢先、
「ねぇねぇライラ!殿下もそうだけど!かっこいい人たちばかりだったね!」
「そうですよ!それに殿下から告白されているみたいですしサクリッド様という方からは求婚もされているんですね!?」
先ほどまで大人しかった二人の乙女が目を輝かせてベッドに乗り出してくる。
「ああもぉ!そんなに飢えた獣のような目をしないで!」
これからまた根掘り葉掘り聞かれることになるのは確実であった……




