重なり合う面会客
私が意識を取り戻した日の翌日。
取材や面会が頻繁に訪れる中での、午後三時。
ローリィとベレッカとベッドで寝ている私の三人で楽しくおしゃべりをしていた。
「こうして寝てばかりっていうのも退屈ね」
「そんなこと言うけど、普段は忙しい日々なんでしょ?こういうときくらいゆっくり休みなさいよ」
「そうです!ライラック様は働き過ぎです!」
すっかりと仲良くなったローリィとベレッカの二人が、私の言葉を揃って否定してくる。
それが嬉しくもあり、少し寂しい。
「ここならリラックスもできるでしょ?まるで高級ホテルみたいな部屋なんだしね?」
「とっても大きなベッドはもちろん。高級そうな木製のテーブルに黒革のソファが並んでいて会議もできそうだし、トイレにお風呂も完備。さすがVIPルームですね」
「まあそうね。快適に過ごさせてもらっているわ。だけどやっぱり自分の部屋がいいものよ」
「あはは、ライラらしいわね」
なんてことない談笑で盛り上がっていると、コンコンとノックがされる。
返事をして入ってきたのはお世話になっている若い女性看護師さん。
「ライラック様、失礼いたします。面会のお客様が来られましたが、どうなさいますか?」
「あら?どちら様?」
「それが……」
チラリと傍にいる二人へと視線を送る。
「別にいいわよ。この二人なら」
「かしこまりました。訪問者はセイクリッド殿下です」
その言葉に私の胸がドクンと高鳴った。
「「ええぇぇぇ!?」」
看護師さんの言葉に二人は大きな声を上げた後に、お互いにしぃっと口に人差し指を立てる。
「……そうね。先客が来ていることを承知していただけるのならお会いすると伝えてくださる?」
「いや、その……私たち帰るわよ……?」
「ええ、殿下とお会いする方が大事ですし」
「いいえ。私がまだ帰ってほしくないの。来てくれたばかりじゃない。相手が殿下だろうが関係ないわ」
「ライラってば強すぎ……」
「で、できるだけ隅っこの方でお話しが終わるの待ってますね……」
「そんなに気にすることなくてよ?殿下は心優しい方だし、お友達として紹介したいわ」
「な、なんでこんな大事に……」
「私、ドレスじゃないですよ……?」
「当たり前でしょ?パーティーでも何でもないんだから……」
「それじゃ、殿下にお伝えくださる?」
「かしこまりました」
看護師さんは丁寧な一礼の後、病室から出ていった。
「も、もしかしたら、他に人がいるならってことで来られない可能性も……」
「そ、そうですね、ベレッカさん……」
こそこそ話し声が聞こえてくるのだけど、もう一度そのような人ではないと言うことは簡単。
でもここはあえてそのままにしておきましょう。
面白いから。
それから少しの間、二人は緊張した様子で硬直状態になってしまった。
うふふ、カチコチで面白いわね。
コンコン。
そうしていると、すぐにノックの音が聞こえてきた。
「ライラック様、お客様をお連れいたしました」
「どうぞ」
先ほどの看護師さんが開いた扉を通り、セイクリッド様が現れた。
グレーの上下のスーツで普通のコーディネートをしているのだけど、きらびやかな素顔がそれらの努力を無駄にしているとしか言えないわ。
とても目立っていますわよ、セイクリッド様。
「失礼するよ。伯爵殿」
さすがに人前ということもあり、名前を呼ぶようなことはしない。
「あわわ……ローリィ、本当に殿下だわ……」
「ど、どうしましょう……と、とりあえず、立ちますか?」
「そうね、そうしましょう」
二人はすくっと気をつけの体勢で立ち上がった。
「殿下、私のお友達を紹介させてもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ、お願いする」
「こちら、ベレッカ・デレリアット様です」
「名目ばかりとはいえ夫がご迷惑をおかけいたしました!」
「ああ、君と君のご実家が関係ないことは知っている。それほど厳しい罪にはならないだろう」
「ご温情ありがとうございます!」
「続いて、ローリィ・ノピア。殿下も名前くらいは知っているのでは?」
「ああ、有名な歌手だということは知っている。残念ながら歌声を聴いたことはないがね。今回は大変な思いをしたことだろう」
「ローリィ・ノピュ……!ノピアです!ライラック様に助けていただき無事でいられます!本当に感謝しかありません!」
二人との顔合わせを終えたセイクリッド様は、こちらを向く。
「此度は大変なことになったと聞くが、存外無事なようでなによりだ」
「このような体勢で失礼いたします。懸命な治療のおかげですわ」
「そうか。後、見舞いの品も持って来ようとも思ったが貴殿のことだ。大量にもらっていることだろうと思い、後日送らせてもらうことにする」
「ありがとうございますわ」
私が笑顔で答えると、セイクリッド様も笑った。
すると、ついこの前のやり取りを思い出し、どうもセイクリッド様の顔を真っ直ぐに見られない。
二人を帰さなかったのも、あんなやり取りの後に二人で会うのを避けたかったからだと思う。
うぅ……どうも鼓動が高鳴って仕方ないわ……
こんなこと、今までお会いしたときにはなかったのに……
私も言葉が出てこずに、セイクリッド様もなにも話さない。
当然ベレッカやローリィも喋らずに、沈黙が流れていく。
すると、コンコン。
再びノックの音がした。
「よろしいですか?殿下」
「もちろんだ」
「お入りになって」
「失礼いたします。ライラック様に面会の方が三人同時に来られまして……サクリッド様、シェルド様、ハルト様という若い男性の方なのですが、お知り合いでしょうか?」
「ええ、知っているわ。ただ、今は殿下が来ていらっしゃるから申しわけないけれど少し待たせてもらえる?」
「いや私は構わない。通してもらおう」
そう言った私に、殿下が早い口調で告げた。
「どういうおつもりですか?」
「……伯爵への来客に興味が湧いた」
少し不機嫌な様子のセイクリッド様。
その様子から説得は無理だと悟った。
「いいわ。三人とも通してもらえるかしら?」
「かしこまりました」
ムスッとしたセイクリッド様に、オドオドとして顔を見合わせるベレッカとローリィ。
……なにやら大変なことになりそうね。




