凶行
数日のリハーサルを終えていよいよ公演初日がやってきた。
私は劇場の舞台袖で開演を待つことくらいしかできずに、忙しくするスタッフたちの邪魔にならないように隅の方でステージの方を眺めている。
反対側の舞台袖にはハオルが待機しており、公演途中にローリィが襲われたとしてもすぐに駆けつけられるように計画済みだ。
後、三十分で開演か……
私の腕時計が示す時刻を見て、緊張が高まる。
入口では鞄類の持ち込みはお断りし、劇場の受付で預かる形をとっているし、男性にはボディチェックをお願いしている。
これで危険物を持ち込まれる可能性は、ほとんどない……と思いたいところね。
ザワザワ……
そんなことを考えていると、入場の時間となったらしく場内が騒がしくなっていく。
だけど暗幕で仕切られているので、こちらからはその様子を窺うことはできないでいた。
ふぅ……自分が舞台に立つわけでもないのに緊張するわね……
私は熱気に包まれる舞台袖で、静かにその時を待った。
やがてざわめきが静けさへと変わっていくと、一気に舞台を遮っていた暗幕が開かれる。
そこには白いワンピースドレスを着たローリィが光魔灯の光に照らされ、佇んでいた。
「みなさん!本日は私の公演に来てくれてありがとうございます!」
ローリィの声が劇場内に響くと大きな拍手と歓声が湧き上がる。
「精一杯歌わせていただきますので、楽しんでいってください!」
その言葉が終わった瞬間、ローリィの背後にいる楽団たちの演奏が始まった。
そしてローリィも歌い出す。
アップテンポで勢いある歌を。
白いドレスに身を包み、私の隣に立つはにかむあなた。
これからともに歩いていく道を、ずっと支えあって生きていこう!
新婚となる二人の門出の曲ね。
護衛という任務がなければローリィの歌とダンスを堪能したいところだけど、そうも言っていられない。
私は舞台袖から客席の方をチェックしていく。
ほとんど暗がりで見えないけど、それでも動く者がいれば把握はできそうね。
そう思った瞬間。
座席から立ち上がる人物が現れた。
舞台から見て右側の中央辺り。
人影でしか判断できないけど、ドレスを着た女性のように見える。
一曲目だというのにトイレかしら?
そう思い観察をしていたところ、その人物は中央通路に向かっていき、その場で立ち止まる。
そこは!?
第六感が働いた瞬間、私は駆け出していた。
ダンスで動き回っていたローリィが曲の間奏に入り、中央地点に戻る。
すると、そこに射線が通ってしまう。
タァン!
魔導銃が射たれた。
炎でも雷でもない。
ならば、氷弾だ。
そう判断したと同時に左腕に魔力を込める。
この短い時間では左腕だけが限界。
「ローリィ!」
私は横からローリィを突き飛ばし、氷柱のような弾を代わりに受け止めた。
グサッ!
「うっ!」
「ライラック様ぁ!?」
さすがに完全に防ぐことはできずに、氷弾はドレスを突き破って左腕に突き刺さる。
だけどローリィは無事に助けることができた。
突き飛ばした拍子に擦り傷はあるかもしれないけど、そこは許してほしい。
「姉様!」
「私はいいから犯人を取り押さえなさい!」
「……はい!」
先ほどまで歌声と歓声が響いていた場内は、悲鳴とどよめきによって騒然としていき、観客たちは出口へと殺到していく。
そんな中、ハオルが銃を構えた犯人を取り押さえにかかった。
「邪魔をするなぁぁぁ!」
すると、女性とは思えないほどの大声が届く。
そうか……女装していたのね……
銃はドレスのスカートの中……
さすがに女性のスカートの中のチェックまではお願いできないもの……
「ライラック様!ライラック様ぁ!」
「私は大丈夫だから……舞台裏まで逃げなさい……犯人はハオルが抑えてくれるから……」
「でも血がいっぱい流れています!」
「応急処置はできるから……」
私は右手で氷弾を引き抜くと、魔力を左腕へと集中させる。
こうすることである程度の治癒効果があり、止血も可能。
まったく……魔闘術とは良くできたものね……
館長にお礼を言わないと……
「姉様!犯人は確保しました!警士たちが取り押さえています!」
「そう……それで誰だったのかしら……?」
「今はそんなことを言っている場合ではありません!治癒院へお連れします!」
「そうね……頼んだわ……」
私はその言葉を残し、意識を失った。




