父と娘と
「カーズ・ドライクと会ってきたけど……」
「どうでしたか?」
ドライク家から帰ってきた私はローリィと自室で、話しをしている。
「なんというか……はっきり断定できない感じなのよね。好印象のお父さんというイメージしか持てないのに、何かが引っかかるというか……」
「私がお会いしたのは一回だけですが、ものすごく興奮した様子で良いお父さんとは思えない印象でした」
「話しをしていると同一人物とは思えないような気がするわね。とりあえず三人とも動向は確認させておくし、護衛はハオルを付けるから安心してね」
「ありがとうございます!」
「ところでハオルは良く働いているかしら?」
「ええ、メイドとして働いているときも休憩中も負担に感じない距離で見守ってくださってますので安心です」
「そう。ならよかったわ」
にっこりと微笑むローリィに私も心から安心できた。
しっかりと睡眠も取れているようで顔色も良く、体調も良さそう。
だけど……
「一週間後の公演、本当に舞台に立つの?延期してもいいんじゃない?」
「いいえ、ファンの皆さまが待ってくれているので延期はしたくありません。それにライラック様が守ってくださっていますから」
「ふぅ……責任重大ね」
「えへへ、ごめんなさい」
「ふふふ、構わないわよ」
ここまで信頼を置かれると、なにも言えないわ。
公演は私の劇場で開かれるのだし、絶対に守ってみせる。
「それで二日後から舞台での音、演出、ダンスの合わせの練習があるので劇場へと出向く必要があるのですが、ハオル様をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
「その間、メイドのお仕事ができなくなってしまって申し訳ないです……」
「あなたはメイドである前に歌手でしょう?そんなこと気にしなくていいの。だけどあなたメイドのスキルも高いわよね?」
「家事は物心ついたころからやってましたから」
「そう言えば、家族はいるの?」
「母はいませんが……父がいます……」
家族のことを聞いた途端に、ローリィの表情が曇った。
「聞かない方が良さそうかしら?」
「いえ、良かったら聞いてくださいますか?あまり気持ちがいい話ではないですけど」
「ええ、話してちょうだい」
「……父は、乱暴な人です。毎晩お酒飲んで少しでも機嫌が悪いと暴力を振るわれていました。そして十五歳になって成人を迎えるとすぐに歌酒場で働くことになり、そこで働いて稼いだお金は父が全部持っていきました。そんな折にその日歌うはずだった歌手の方が病気で来られなくなり、急遽私が歌うことになったんです。閉店時に口ずさんでいたのが上手だったからイケるよ!なんてマスターの言葉は今でも覚えています」
「ふふふ、それが初めてのローリィの舞台だったわけね」
「はい、それが思いのほか好評でして、歌手としてやっていくようになりました。すると収入も増えたのですが、やはり父に全部持っていかれてしまっていました」
「悪いけど、人間の屑ね」
「ええ、私もそう思います。そしてファレドさんに見出してもらい、その際に契約金として相当なお金を払ったと聞いています。それから三年が経ったころ、どうやら全部使い果たしたようで、劇場にまでお金の催促にやってくるようになりました」
「呆れ果てるわね」
「ですが私もいつまでも子どもじゃありません。きっぱりと言ってやりました。あなたを父とは思っていません。なので私に会いに来ようとしないでくださいって。そうしたら暴れだして、ファレドさんが通報してその結果騎士団に捕まりました。その後、被害届を出さない代わりに弁護士さんに接近禁止の書類を作成しました」
「それから無事に暮らせてるのね?」
「はい、一年ほどになりますが、顔を見ずに過ごせています」
とんだ父親もいたものね。
「ライラック様のご両親はどういった方ですか?」
「母は小さいころに亡くなったのであまり覚えていないけど、父が言うには大した女傑だったらしいわ」
「うふふっ、ライラック様と同じですね」
「そうかしら?父は婿養子でレミゼラルムーン家に入った人で、貴族でも富豪でもない普通の人だったわ。そんな人に母は一目惚れしたく、あっという間に結婚までしたんですって」
「わぁ……凄い行動力ですね」
「ふふっ、そうね。それから母が病気で亡くなると父が当主になったわ。だけど黒髪ではなかったから、あまり認められなくて苦労したようね。それで私が成人するとすぐに当主の座を譲ったの。それから父は旅に出たわ。母の最期の言葉を胸にね」
「最期の言葉、ですか?」
「いろいろな場所をあなたと子どもたちと旅してみたかった。ナディアスという街に縛られてしまった母だけど、自由に憧れていたんだと思う」
「……ライラック様も、そう思われますか?」
「私はこの街が好きよ。それにいろいろな景色は父が見せてくれているから」
「お父様が?」
「ええ、定期的に絵葉書が届くの。美しい光景のね」
「素敵な、お父様ですね」
「そう?娘をほっといて好きにしているだけかもしれないわよ?」
「そんな言い方は意地悪だと思います!」
「うふふ、ごめんなさい」
意外な話で盛り上がったけど、これから忙しくなりそうね。
しっかりと責務を果たしましょう。
レミゼラルムーン家の当主として。
胸を張って亡き母に誇れるように。




