夜の街 ナディアス
───時は少し遡り、会談後のライラックとハオルシア───
今だ賑やかなパーティ会場を後に、私たちは王城の外へと出る。
白い光魔灯が等間隔で設置された通路を歩き、馬車置き場へと向かう。
「レミゼラルムーン家の場所をお願いする」
「……かしこまりました」
馬車置き場の門にある受付の若い男は少し顔をしかめながらも、頭を下げた。
そして、リンリンと鐘を鳴らすと別の男がやってきた。
「レミゼラルムーン家の場所をこちらまで」
「へい、承知しやした」
「この者がすぐに持って参りますので、少々お待ちください」
「ありがとう」
私は受付の男に感謝すると、男は軽く会釈をして事務作業へと戻っていった。
その後、少しして一頭の馬が牽く小型の車がやってくる。
レミゼラルムーン家の紋章である黒い薔薇がうっすらと車体の横に刻印されており、私の愛車だ。
「お待たせいたしやした」
「ありがとう。じゃあお願いね、ハオル」
「はい」
ハオルは短く返事をすると御者の席に座った。
ブルルル……
「どうどう」
馬がいななくのを上手く操り、制止させる。
「姉様、どうぞ」
「ええ」
私は馬車の扉を開くと、備え付けの革張りの席に座った。
「出してちょうだい」
「はい」
こうして、夜の道を私たちの馬車が走っていった。
時刻は夜の十一時。
王都から貴族街、商店街を抜けて、風景は住宅街の中。
すっかりと街の灯は消えているが、光魔灯が一定間隔で道を照らしてくれるのと、馬車の先端にも光魔灯が備えてあり、夜道とはいえ走行していても危険は少ない。
カタカタと石畳の上を揺れる車体ではあるが、お尻はクッションで守られているため快適だ。
そんな夜道を走っていると、やがて眩いほどに輝く街が見えてきた。
王都にありながらもナディアスと名付けられた街だ。
ここは治外法権であり、王の管理下ではなくレミゼラルムーン家が管理する街。
つまり、私の街だ。
「これはお嬢、お帰りなさいませ」
馬車は街の入り口にある門の前で止まると、二人体制で警備している男たちが話しかけてくる。
どことなく粗野な雰囲気が漂っているが、これでも公務員だ。
なので身なりはきっちりとしており、赤と黒の制服を着用している。
「どうでしたか?パーティーは?」
灰色の髪に頬に傷がある男が気軽に声をかけてきた。
「あまり居心地がいい場所ではなかったわね」
私も笑みを交えて返事をした。
「へへへ、違いないですな」
もう一人の警備兵であるスキンヘッドの男がニヤリと笑い、傷の男が更に問いかけてくる。
「これからお嬢は見回りで?」
一般的には深夜だが、ここは夜の街ナディアス。
賭博場、酒場、ダンスホール、劇場など多くの店舗が営業している。
「ええ、どう?繁盛してる?」
「王の誕生記念ってことでどこも盛大に営業してるんで、夕方くらいからひっきりなしに入っていくもんが多かったですわ」
スキンヘッドの男が肩をすくめてぼやく。
「そう。それは重畳」
「おっと、すいやせん。忙しいお嬢をこれ以上引き止めてはまずいですな」
傷の男が馬車から離れると、スキンヘッドの男も離れた。
「警備、ご苦労さま」
「へへへ、その言葉だけで疲れも吹っ飛びやす」
「それではお帰りなさいませ!お嬢!」
そして二人は並んで敬礼をする。
そんな彼らに手を振りながら、馬車はナディアスへと入っていくのだった。




