特別コンサート開演
最後の訪問者であるローリィとの面会が終わり、私は街へと繰り出した。
ハオルはローリィの護衛として屋敷に残してきたので、ゼオンの部下を一人借りて街中を見回ったのだけど、やはりナディアスは最高ね。
光魔塔が色鮮やかに煌めく街はとても美しく、人々は楽しそうだった。
ただ……
「久しぶりに馬車に乗ったおかげでお尻が痛いわ……」
私のお尻の痛みは治まってくれないでいる。
そうして日付けが変わってタイミングで視察から帰ってくると、
「お帰りなさいませ!」
なぜかローリィがメイド服姿で出迎えてくれた。
あら、可愛らしい。
「えっと……何をしてるのかしら?」
「こちらで過ごさせてもらうお礼にお仕事をさせてもらおうと思いまして、ゼオン様から制服をお借りしました」
「ゼオン?どういうことかしら?」
私は近くで待機しているゼオンに問いかける。
ハオルもいるけど、気まずそうに視線を逸らしているので、ゼオンに聞いた方が早そうだわ。
「どうしてもというお願いでしたので、断りきれませんでした」
「あなたねぇ?レミゼラルムーン家ではお客様を働かすなんてことはしないのよ?」
「それは重々承知の上です。私もハオルシア様と一緒に何度もお止めしたのですが……」
「それでも止めきれなかったと?」
「はい」
涼しい顔で何を言っているのかしら。
「ローリィ?あなたはお客様なの。だからそういったことはしなくていい、いいえしてほしくないの」
「……どうしても、ダメですか?私、何も恩返しできなくて……」
うっ!そんなに目を潤ませてこっちを見ないでちょうだい!胸が痛いわ!
はっ!この瞳にゼオンとハオルはやられてしまったのね……
チラッと二人を見ると、こくこくと頷いた。
だけど私は負けな……
「ライラック様ぁ……」
あぁ……!眩しい!
光魔塔の光よりもずっと眩しいその泣きそうな表情が、私を照らしていく。
「……ほどほどにしておきなさいね」
「ありがとうございます!」
負けた。
レミゼラルムーン家の名誉よりも、湧き上がる何かに負けてしまった。
これは……母性?
ふと、ゼオンの方を見るとほら、そうなるでしょう?と言わんばかりに微笑んでいる。
憎たらしい顔だわ。
減給してあげたいわ。
それに比べてローリィは……
「なんですか?ライラック様?」
きょとんと首を傾げた。
ああ、可愛い。
撫でるしかないじゃない。
「ふわぁ……ライラック様のお手は優しいですね……」
この娘は絶対嫁にはあげないわ!
さっさと犯人を捕まえて安心させてあげるから!
「あっ、メイドになったということは私の命令は聞かないとダメなわけよね?」
「はい!何でもお命じください!」
「ふふふ……言ったわね?」
職権を使わせてもらうわよ……
「寝るときに子守唄歌ってくれる?」
「もちろんです!」
「ああ!姉様ズルいです!」
そこまで静かにしていたハオルが憤慨して、私に抱きついてきた。
「ボクもローリィさんの歌を聴きたいです!」
「私も聴かせていただきたいのですが?」
それに加えてゼオンまで参加する。
「私もです!」
「俺も!」
「吾輩も!」
そして次々と賛同する使用人たち。
「ええいもう!こうなったらここで歌ってもらいましょう!みんな!椅子を持って来なさい!」
「「「はい!」」」
一糸乱れぬ動きでありとあらゆる椅子を持ってくると、玄関ホールに並べた。
すると、玄関ホールは小さな劇場のようにも思えてくる。
「それじゃあローリィ?階段の中央くらいに立ってお願いできる?」
「お任せください!」
とことこと中央にある階段を五段目くらいまで上がると、くるりと振り返った。
そして……
「Lalala……♪Lala……Lalala♪」
優しくも力強い歌声が響き渡っていく。
私たちはその歌声に聴き惚れて、誰も何も喋らないまま、時は流れていった。
パチパチ!
一曲が終わりを告げてからも特別コンサートは続いていき、やがて……
「警備員ケルビック!歌います!」
どんちゃん騒ぎとなってしまうのだった。
ただ、ローリィが楽しそうに笑っていたので、良しとしておきましょう。




