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忌み嫌われる夜の令嬢ですが国家の中枢を担っています  作者: think


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姉と弟と

セイクリッド様が帰った後も、私はただボーっと黒猫のブローチを見ていた。


(……可愛い子)


そう思った矢先、


「姉様!セイクリッドが来たというのは本当ですか!?」


ハオルがノックもせずに飛び込んでくる。


「ハオル!ノックくらいなさい!それに殿下の敬称はしっかりと付けなさいな!」


「本人が目の前にいれば考えますがいないのなら知りません!それよりもやつはなにをしに姉様に会いに来たのですか!?」


もはや名前でもなく、やつ呼ばわり。

よほど嫌いなのね……


「セイクリッド様は、その……」


なんというか言いづらい。

私を心配して会いに来てくれたと言えばいいだけなのに、告白めいた言葉が頭の中でぐるぐると渦巻いて上手く言葉にできそうにない。


「はっ!?」


そんな私を見たハオルは何かを察したようだ。


「もしや破廉恥な真似をしたのでは!?」


「そ、そんなことされてないわよ!セイクリッド様はただ私を心配して会いに来てくれただけ!」


「心配?」


「ほら、新聞に私のことが大きく載ってしまったでしょ?それを読んで来てくださったのよ」


「……それだけですか?」


「どういうこと?」


「姉様が先ほどから妙にご機嫌なことが気になっています。今日は延々と書類作業が続いていて不機嫌だろうと思い、ミッドナイトのナイトケーキを購入してきたのですが……そのようなボクの気遣いよりも機嫌が良いなんて何かあったに決まっています!」


ハオルには街の見回りを頼んでいた。

その帰りにケーキを買ってきたのね。

いつもならとても喜んだのだけど……


私はさりげなく咳払いをし、ケースに入ったままの黒猫のブローチを書類の影に隠す。


「あら、嬉しいわ。早速食べたいからお茶を淹れてきてくれる?」


「ええ、わかりました。ですがその前に今隠したものを見せてくれますか?」


「な、なんのこと?」


「姉様の右手がさりげなく書類の影に移動させたものですよ」


「き、気の所為じゃないかしら?」


「姉様、ボクを甘く見ないでください。視線は真っ直ぐにボクを見ていましたが手が不用な動きをしていたのを見逃してはいません」


(……我が弟ながらやっかいな子ね)


「なら、三つのことを誓いなさい。まず一つ冷静であること」


「もちろんです。ボクはいつも冷静ですから」


嘘をつきなさい。

そう思いつつも私は言葉を続ける。


「二つ目は乱暴に扱わないこと」


「ええ、ボクは何ごとも丁寧にを心掛けていますので」


実際そうではあるのだけれど、不安が募るのはなぜかしら。


「それで三つ目はなんですか?」


「セイクリッド様の悪口を言わない」


「……」


「黙ってないで約束しなさいよ」


「姉様……なんて困難なことをおっしゃるのですか……?その約束がどれだけ難しく、ボクを苦しめるかということをわかっていません……」


「そこまでのことではないでしょう」


「そこまでのことではあります!くっ!あの野郎!」


「はい、失格」


「姉様。今のは間違いです。セイクリッド殿下は素晴らしい……お方、です……」


もう少しスムーズに話せるでしょうに。


ハオルは無理やりつくった笑顔を見せる。


「はぁ……ちゃんと約束守りなさいよ」


「もちろんです!」


「これ、セイクリッド様から頂いたの」


私は黒猫のブローチが入ったケースを開けたまま渡した。

すると不自然だった笑顔がさらに不自然さを増していく。

頬はピクピクと揺れ、目には怒りがこもっているように見えた。


「へ、へぇ……大人の女性に渡すものとしてはずいぶんと可愛らしいですね……」


「私もそう思ったのだけど、これはセイクリッド様が初めて私のために選んでくれたものだと思うと、嬉しい気持ちでいっぱいだわ」


「……なぜそんなことがわかるので?」


「包み紙やリボンがずいぶんと色褪せていたから。どれくらい前かわからないけどね」


「むむむ……」


ハオルは私の言葉についに笑顔を崩してしまった。


「姉様!ボクの初めてのプレゼントを覚えていらっしゃいますか?」


「ええ、あなたが三歳のころにくれたキスが一番最初ね」


「……えっ?」


「あら覚えてないの?私の誕生日にチュってしてくれたんだけど……」


「覚えていません!ボクが覚えているのは五歳のときの……!」


「ああ、折り紙で作った花かしら?ちゃんと取ってるわよ。ちょっと待ってね」


私は机の引き出しから、おしゃれな木箱を取り出すと中を開いた。

そこにはハオルの折った折り紙の花が咲き誇っている。


「ほら、綺麗でしょう?」


「ま、まだ持っていてくれたんだ……」


「当然じゃないの。大切な弟からもらったプレゼント。捨てられないわ」


「……て、照れるよ姉様……」


そう顔をうつむかせたハオルは、ブローチの入ったケースを差し出してくれる。


「ありがとう」


「そ、その……ケーキとお茶を持ってくるから……」


「ええ、お願いね」


「ん……」


ずいぶんと大人しくなったハオルだけど、なにがきっかけかしら?

良くわからないけれど、良かったわ。


コトン。


机に上にサクリッド様から頂いた万年筆とハオルの折り紙の花々、そして黒猫のブローチが並ぶ。


「私は幸せね。こんなにも愛されているのだから……えへへ」


あまりの嬉しさに、ついにやけてしまうライラックだった。

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