会談の後に
「それでは会議はここまでとする」
「かしこまりました、陛下」
会議は月末に一度の一時間きっかり。
これは初代からの決め事である。
光と影が混じり合う時間が長くなると、境界が分からなくなるためだという。
当主になる前はよく意味が分からなかったが、今では分かる。
お互いの情報を知り過ぎることは決してプラスにはならない。
なので最低限のやり取りで、どうしようもない膿を取り除いていく。
それこそが、光と影の二権の分立なのだと。
「それでは陛下、殿下。私どもはこれで失礼させていただきます」
「ああ、貴重な情報感謝する」
「いえ、この国の平穏のためですから」
こうして、光と影が混じり合う異様な会合は終わりを迎えた。
次はきっかりと一月後。
「またお会いいたしましょう、陛下、殿下」
私がペコリと頭を下げると、ハオルもそれに続いた。
持ち込むものもなければ持ち帰るものもない。
あるとすれば頭の中の情報のみ。
不正を働いたグリオン男爵の証拠は、王が命じた捜査機関によってすぐに見つかるだろう。
不可解な大量の現金や書類の捏造など、きっかけがあれば隠し通すことは難しい。
「ふふふ……最後の晩餐を楽しみなさい……」
「姉様……台詞が悪役そのものですよ」
ふと出た呟きを前を歩くハオルに聞かれてしまったようだ。
「失礼ね。一つの穢れを消しとっただけなのに。悪役ではなく正義を助ける助演女優にしてほしいところね」
「相変わらず姉様は勧善懲悪の劇がお好きなようですね」
「ええ、悪が滅びるのはいいことだもの」
「ふぅ……姉様だけは敵に回したくないものです」
「ハオルが敵になるわけないでしょう?あなたは私の大事な弟なのだから」
「姉様……」
大きくなった弟の手に引かれ、私たちは王城の自室へと戻っていった。
───二人が去った後の一室───
「さすがライラだな。しっかりと下調べもしているようだし、第三騎士団に捜査を命じればすぐに物証を見つけてくるだろう」
「そうですね。父上」
「どうだ?後継者としてここへ連れてくるようになったが、国の在り方が分かってきたか?」
「最初は戸惑いましたよ。父上が忌み嫌っているレミゼラルムーン家のものと親しくしているなんて」
「ははは、結構名演技だったであろう?」
「ええ、他の弟妹や貴族たちもすっかりと騙されてしまっています」
「それでいい。我らは一歩引いたところで、夜の闇を見守らなければならん」
「はい」
「だから、その恋心は叶わんぞ」
「……分かっております」
ランドルフは厳しい視線を息子のセイクリッドへと送った。
「ふぅ……まるで敵対する国の王女と恋をした気持ちです」
「まったく……婚約者希望の令嬢は数多くいるのに、一番惚れてはならん令嬢に惚れるとは、ライラの美しさも罪なものだ」
「父上、美しさに罪などありませんよ。あるとすれば、それを手に入れようとする我が心が罪なのです」
「ははは!貴様も言うようになったな!」
父と息子。
さすれば険悪な関係にもなりかねない二人ではあったが、そんなことは関係なく仲睦まじい間柄であった。
そして翌日の午後、グリオン男爵が勤める出入国管理局の局長室。
「賄賂、及び公的文書偽造の罪で貴殿を連行する!」
「なっ!?私はそのようなことは!?」
五人の騎士に踏み込まれ、慌てるグリオン男爵。
茶色の髪をきちんと整え、一見すると真面目そうな若き貴族だ。
「証拠は揃っている。貴様の家の隠し金庫から大量の現金が発見されており、そこに犯罪組織との密約の書類も保管してあったな。そしてこれが王からの逮捕状である」
先頭に立つ騎士が、懐から綺麗に丸められた書状をグリオンに見せつけた。
それを見たグリオンはがっくりと床に手をついてうなだれる。
「手枷を」
「はっ」
書状を持つ騎士が配下の騎士に命じると、鉄製の手枷をグリオンに掛けさせた。
「一つだけ、教えてくれ……?」
「なんだ?」
「なぜ私だと分かったのだ……?証拠は一切表には残さなかったはず……」
「陛下直属の諜報機関が掴んだ情報が貴殿の悪事を見つける有力な証言となった」
「影の騎士団と言われるものが動いていたのか……いったい何者なのだ……」
「それは私も知りたいな。同じ正義を執行する存在として酒を飲んでみたいものだ」
第三騎士団。
貴族の犯罪を取り締まり、王命があれば公爵ですらその捜査を拒否できない。
そしてその実態はというと、王族でもなく貴族でもない優秀な能力を持つ平民から組織されたものだ。
そんな組織の若き騎士であるハルト・アークは書状を胸に収めながら笑う。
赤い短髪と少年のような容貌によって若く見えるが、二十五という年齢で彼を慕う騎士は多いという。
「さあ!撤収だ!」
「「「「はっ!!!」」」」
グリオンを引き連れ、ハルトたちはその場を後にするのだった。




