王子様頑張る
「お待たせ致しました」
「いいや、全然待っていないよ。それに急に訪ねてきた私の方が失礼にあたるからね」
「いいえ、そのようなことはございません」
普段着から急いで黒のドレスへと着替えたので、それなりに時間が経過してしまっているのだけど、セイクリッド様は気にした様子も見せず、逆にこちらへの気遣いをしてくれた。
「それで本日はどのようなご要件で?」
私はセイクリッド様に促され、ソファに座ると早速聞いてみることにする。
殿下が何も告げずにお忍びでやってきたのだ。
それ相応の出来事や事件が起こったに違いないわ。
「いやあ……それなんだが……」
どうも歯切れが悪いわね?
こういう方ではなかったと思うのだけど?
そんな様子のセイクリッド様がお茶を飲んだり、天気の話をしたりと一向に本題に入ろうとしない。
イラッ……
いけないいけない。
少し苛立ってきたわ。
だけど書類作業に疲弊しているところに面倒くさい着替えまでして、この有様。
相手がセイクリッド様でなければ叩き出してもおかしくないでしょう?
「殿下。どれほどの重大な要件でも構いません。しっかりと受け止めますのでお話しください」
「うっ……それはだな……こほん」
私の問いに覚悟が決まったようで、殿下も真剣に私を見てきた。
「君に、会いたくなったので来た」
「そうですか……私に……」
ん?
あれ?もしかして、いやもしかしなくてもただの遊びに来ただけ?
一国の王子が?こんな夜中に?
「……どういう意味か、教えていただけます?」
「そ、そんなに怒らないでくれ!」
「別に?怒っていませんが?」
私はにっこりと微笑んでいるだけだというのに失礼ね。
だけどセイクリッド様はオロオロと狼狽えながら、訪問理由を話してきた。
「新聞で読ませてもらったよ。君はずいぶんと無茶をしたらしいじゃないか?」
「ああ、誘拐事件のことですか?」
「そうだ。襲いかかる大量の亜人たち、そして銃弾の雨の中を進みギゼルという男を捕らえたという。私が心配しても仕方ないだろう?」
誇張というか、かなり話が盛られている気がするけれど、まあいいでしょう。
「セイクリッド様が私を心配なさったのですか?」
「心配もするよ。君は、その……私の……好きな……」
後半の部分はしどろもどろとしていて一切意味がわからない。
「それにしたって大げさではありませんか?危険を犯してまでこちらに来る必要はなかったと思います」
「そんなことはない」
私の言葉を、セイクリッド様は真剣な表情で否定されてしまう。
「君は私にとって大切な存在だ。そんな君を見舞いたいと思うのは、必要だとかそういった問題じゃない。私が大切な君に会いたかったのだ」
セイクリッド様の言葉に嘘偽りは微塵も感じない。
殿下の本心だと私は悟った。
そう思うと、自然と顔が熱くなってきた。
いくら恋愛には疎い私でもわかる。
この言葉は……その、愛の告白にも近しいと思ってもいいのよね……?
「……」
私が何も言えずに黙っていると、セイクリッド様は慌てて言葉を続けた。
「そ、そのだな!君が無事なようで本当に安心した!だけど次からは無茶はやめてほしいとだけ伝えにきたのだ!」
そしてセイクリッド様そう言うとすぐに立ち上がった。
「あとこれはプレゼントというか!以前から渡したかったものだ!受け取ってくれ!」
惚けた私は差し出されたものをあろうことか座ったまま、受け取ってしまう。
だけどそんな非礼を怒るわけでもなく、ホッとした様子でセイクリッド様は笑った。
「良かった……それでは失礼する!」
バタン!
扉が大きな音を立てて閉まったのを耳で把握した後、私ははっと我に返る。
「セイクリッド様ったら……」
普段は見せないであろう姿に、私は微笑みを浮かべた。
そして手にある包みに目を落とす。
白い包装紙と薄いピンクのリボンがなんとも可愛らしい。
(それにしても……ずいぶんと時が経っているようね?)
白い包装紙もリボンも色褪せているように見える。
私はそんな包装を綺麗に解き、中身を取り出した。
すると黒いケースが現れ、それをパカッと開く。
そこにあったのは、宝石で象られた可愛らしい黒猫のブローチだった。
瞳にはイエロー、身体にはブラックの小さな宝石たちが散りばめられている。
可愛らしい品ではあるけれど、成人した女性に贈るには少し子どもっぽいもの。
だけど伝わってくるものはある。
私が幼い頃から、想いを寄せてくれていたのだと。
(ふふふ……ありがとうございます……セイクリッド様)
私はギュッと小さな黒いケースを握りしめた。




