ポンザ・デレリアット侯爵の破滅
誘拐事件解決の翌日の午後。
疲れた身体をたっぷりの睡眠で癒した私は、シェルドの報告を応接室で受けていた。
「頑なに喋らないギゼルと司法取引を行いました」
「そう。どのような内容で?」
「有期刑での取引となりました」
「人身売買に武器の不法所持、他にもあるでしょうから終身刑も視野に入っていたのでしょうね。まあ情報を得られるなら妥当な落としどころかしら」
「それでギゼルから得た情報で人身売買に加担したものを芋づる式に逮捕する予定です」
「貴族や富豪ばかりで大変でしょうね?」
「ええ、ここからは第三との連携も重要となってきますが、成し遂げてみせます」
「ええ、期待しているわ」
一旦の話の切れ目に、私は紅茶を飲む。
「それで、サクリッド様と異国連合はどうなるのかしら?」
「そうですね。サクリッド殿は捜査に非常に協力的でして助かっております。それにギゼルと血縁であるという以外の一切の関与がなく、管理不行き届きでの罰金くらいなものかと思われます」
「そう。それなら良かったわ」
罰金は相当なものになると思うけど、サクリッド様ならばすぐに立て直せるでしょう。
そして後は……
「デレリアット侯爵の方はどう?」
「ギゼルからの情報によると子どもたちのオークションに関しては侯爵が一任されていたらしく、自身の所有する屋敷での開催、顧客の勧誘など証言は十分ですので侯爵も逮捕されるでしょう」
「デレリアット家はどうなるかしら?」
「そうですね……裁判の結果となりますので詳しくはわかりませんが、取り潰しもしくは今代限りの家名となるのではないかと思います」
「ふふっ、私もそう思うわ」
「おや?ずいぶんと嬉しそうですね?」
「デレリアット家の夫人……いや令嬢と言うわ。彼女が望まぬ婚姻から解放されそうで良かったと思ってね」
「ああ、デレリアット家令嬢のベレッカ嬢のことですか。今回のことは離縁するきっかけは十分ですからね。彼女が関与していないことは裏が取れていますし」
「そうでしょうね。結婚して以来同じ屋敷に住まずの別居生活だもの」
「ベレッカ嬢の今後にも幸せが訪れると良いですね」
こうして会談は終わりを迎えた。
売られてしまった亜人の子どもたちは外交問題にも関わるので、なんとも言えないけど帰る家がある子たちは帰してあげたい。
もし孤児だとしたらうちで預かることも考えている。
だけども最優先するのは子どもたちの健康と感情。
心に傷を負った彼らを癒してあげたいと思う。
そう私が誓った翌日。
朝から騎士団は動き回っていく。
デレリアット侯爵を含む貴族十二人が逮捕され、裕福な民間人も三十人ほどが逮捕された。
この大捕物は即座に新聞で早刷りされて、夕刊のトップ記事となるのだった。
───デレリアット侯爵家、屋敷───
「第三騎士団ハルト・アークだ!デレリアット侯爵に逮捕状が出ている!大人しく出てきてもらおう!」
赤い短髪に鋭い目つきで扉を睨むハルトは、白い騎士服姿でデレリアット侯爵家の敷地内に立っている。
後ろには複数人の警士を引き連れ、デレリアット侯爵家の扉を叩いた。
だが、音沙汰なしだ。
「あと五分待つ!それ以上経てば強制執行とさせてもらうぞ!」
その宣言通り、ハルトたちは時が過ぎるのを待った。
「隊長、五分です」
「わかった」
「出頭命令に従わなかったため、強制執行を開始する!総員!扉を打ち破れ!」
「「「はっ!!!」」」
複数人の警士たちが扉に向かって体当たりを行う。
すると何度かの突進の後に、扉がギシギシと悲鳴を上げ始め、やがてダァァァンと大きな音を立てて扉は開いた。
「突入!屋敷の使用人には手荒な真似はするな!当主だけを確保しろ!」
「「「了解!!!」」」
屋敷内の捜査を開始して、二十分ほどが経過した頃。
当主の部屋にはおらず、宝物室にてポンザ・デレリアット侯爵はいた。
多くの金銀財宝が彼の周囲を取り囲んでいる。
「ポンザ・デレリアット侯爵だな?貴様を拘束させてもらう」
「嫌だ嫌だ!私は何も悪くない!何もしていない!」
赤い絨毯の上に腰を落とし、ぶるぶると震える姿はあまりにもみっともない。
「それは裁判で語るんだな。手枷をはめろ」
「はっ」
「やめろやめろぉぉぉ!」
ポンザの必死の抵抗も虚しく、二人がかりで取り押さえられた結果、鋼鉄製の手枷が彼の手にはめられた。
「確保完了。帰還する」
こうしてポンザは拘置所へと連れて行かれることになる。
そんな中、ハルトは思う。
この逮捕にはレミゼラルムーン家のライラック様からの大きな貢献があったらしい。
それも先頭に立って異国連合に突入したという。
(なんて正義感に溢れ、強い女性なのだろう……)
今度、ご挨拶に行こう。
また会いたいな……




