長い朝の終わり
「レミゼラルムーン伯爵、おはようございます」
「あら、シェルド。おはよう」
出動要請からすぐにやってきた第一騎士団のシェルド。
相変わらず青い髪はしっかりと整えられており、銀縁眼鏡も輝きを放っている。
「ずいぶんと重装備でいらっしゃいますね」
「そう?こう見えて結構軽いのだけど」
「それにしても電光石火の如き解決でしたね。使者の方から聞きましたが、事件発覚からおよそ二時間ほどですよ」
「少し無茶な捜査だったことは認めるけど、結果良ければ全て良しということね」
「……本当に無茶をされる方だ。冷静沈着なあなたと燃えるような熱を持ったあなた。どちらが本当のあなたなのでしょうか?」
「正解は、どちらも私よ」
「ふふふ、そうですね。愚問でした」
シェルドは微笑んだ後すぐに表情を真剣なものへと戻していく。
「建物内にいるものは全て確保せよ!」
「はっ!」
そして彼の命令で警士たちが一斉に建物の中へと入っていった。
「それからサクリッド・シルヴァ殿。一応あなたからも事情聴取させてもらう必要があります」
「はい、もちろんです」
サクリッド様は知らなかったとはいえ、彼の部下である弟が犯した罪。
こうなることは彼も知っていたはずだ。
「彼は協力者でもあるの。手荒な尋問はやめるように」
「ええ、心得ておりますとも」
「ライラック様、お気遣い感謝いたします」
「後、亜人の子どもたちも保護したので彼らを家に送り返してあげて」
「かしこまりました。すぐに手配します」
ふぅ……これで引き継ぎは完了かな?
サリーナさんたちが心配しているから、早く屋敷に戻るとしましょう。
「少し狭くなるけど、馬車には乗れそうね」
四人用の馬車だけど子どもが五人ならばなんとかなりそう。
「馬車に乗れるの!?やったぁ!」
「わーい!」
「俺、運転するとこに乗りたい!」
先ほどまで怖い思いをしていただろうに、元気になってくれて嬉しいわ。
こうして私たちはまだざわめく現場を後にしようとした。
そのとき。
「ライラック様、その可憐なる御姿にかの戦乙女のような美しさを感じました。改めて申し上げさせていただきます。お綺麗です」
シェルドがそんなことを言ってきた。
こ、この男は……私が無防備になった瞬間を狙っているのかしら?
「……ありがとう」
私はそれだけしか返すことができずに、馬車へと乗り込んだ。
その後、行きとは違いスピードを落とした馬車の中はにぎやかなものとなり、あっという間に屋敷へと到着した。
「リアット!」
「お母さん!」
そして親子の対面が果たされる。
皆それぞれが抱きしめ合い、子どもたちの無事を喜んだ。
「ライラック様……本当にありがとうございました……」
「いえいえ、サリーナさんやお母さんたちにお子様を無事に帰すことができてよかったです」
「何度お礼を言わせてもらっても、感謝しきれません……本当にお世話になりっぱなしで……」
「いいのです。サリーナさんたちは私の大切な人なのですから」
「ライラック様……」
サリーナさんたちの瞳から涙がこぼれる。
こうも泣かれてしまうと、少し困ってしまった。
だけど、
ぐぅぅぅ……
「あっ……」
リアット君が鳴らしたお腹の音で一気に場は明るくなった。
「うふふ……この子ったら……」
「お腹が空くのは元気な証拠ですね。よろしかったら皆さんで食事していきませんか?」
「これ以上ご迷惑をかけるわけには……」
「お客様を空腹で帰すなんてレミゼラルムーン家の名が廃れますので、ぜひ御一緒に」
サリーナさんや他の母親たちが視線を合わせると、
「それでは、御一緒させていただきます」
にこりと微笑んだ。
「それじゃハオル。ゼオンに言って準備させてちょうだい」
「かしこまりました、姉様」
これまで生きてきた中で一番長い朝だったけれど、皆に笑顔が戻ったことで疲れも吹き飛ぶのだった。




