ギゼルを成敗いたします
「三階の一番奥の部屋……ここね」
目の前にある大きな木製の扉には竜の装飾が施されている。
「竜なんて贅沢ね。コソコソ引きこもっているならネズミでもいいでしょうに」
すっかりと静かになった通路を歩いて到着したギゼルがいると思しき、部屋の前で私は愚痴る。
コンコン。
そして一応の礼儀を示し、扉をノックした。
シーン……
だが、何も返ってこない。
「あら?留守かしら?」
コンコン。
私は再度ノックをするが返答はない。
「留守じゃしょうがないわね」
ガァン!
一歩後ろに下がり、扉の中央にある鍵穴に拳をぶつけた。
バキバキ!
すると木製の扉は吹き飛び、バタンと倒れていく。
「あら、いるじゃない」
立派な執務机が中央にあり、その左奥にベッドがある。
その上に銃をこちらに向けむ男がいた。
ヤギのような角に長い灰色の髪に赤い瞳。
サクリッド様と良く似た風貌だけど、顔には恐怖の色が強い。
「な、なんだ貴様は!?」
「あなたがギゼル?」
「そうだ!」
「はじめまして。私、ライラック・レミゼラルムーンと申します。奪われたものを取り返しにこさせていただきました」
「お、俺は何も奪っていない!」
「子どもを販売するオークションを行っているのでしょう?だけどもグリオン男爵が捕まったおかげで子どもたちを密入国させられなくなった。なので身近なところから拐っていったというわけなのよね?」
「す、全て言いがかりだ!証拠はあるのか!」
「私が証拠ね」
「は、はぁ……?」
「消去法よ。あなたしか容疑者がいないの。万が一、違ってたらごめんなさいね?運が悪かったと思ってあきらめて」
「そんなバカな話が許されてたまるかぁ!」
タァン!
ギゼルの持つ魔導銃が放たれた。
一条の雷撃が私に襲いかかってくるけど、右手でサッと払いのける。
「あ、ああ……」
「上手くやっていたようだけれど、あなた今日でおしまいよ」
「俺は、兄貴に代わってこの街のトップに……」
「なれるわけないでしょう?あなたどれだけ視野も思考も甘いのかしら?そんなレベルじゃ今のあなたの立場も分不相応だわ。どうせお兄さんの名前を使ってのし上がったのでしょうね」
「うるせぇ!」
私の指摘にギゼルは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「あの野郎がいなきゃ俺がトップだったんだ!」
「逆よ逆。あんな立派なお兄さんがいたからあなたはここまでの立場に立てた。甘ったれるのもいい加減になさい」
「黙れぇぇぇ!」
逆上したギゼルは傍に置いてあった剣で私に襲いかかってくる。
けれども一切の脅威を感じず、私は手甲でその剣を掴んだ。
「こ、この馬鹿力が!」
「その汚い口、もう聞き飽きたわ」
ドスッ!
「ガフッ!」
「一応手加減してあげたけど、あばらの一本くらいは覚悟しておきなさい」
私はギゼルの腹にほどほどの力で拳を放った。
するとガックリとうなだれて、倒れていった。
(これで一件落着といけばいいのだけれど……ああ腹立つわね。もう一発蹴っておくとしましょう)
ドガッ。
気を失っているギゼルの横顔を軽く蹴り上げてあげる。
(ふぅ……少しはスッキリしたわ)
「お嬢様」
「あら、あなたは諜報部の人ね」
顔を黒頭巾で隠した男性が背後から話しかけてきた。
「はっ。賊の調査をし、判明したのでこちらに来てみたのですが……全て終わった後のようですね」
「子どもたちは?」
「ハオル様が保護なさり、外で待っています」
「先に帰りなさいと言っておいたのに?」
「それが、子どもたちがお嬢様と一緒じゃないと嫌だと申しておりまして……」
「わかったわ。みんな怪我はないのね?」
「はい」
もし怪我でもしていたらもう一発蹴ってやろうかと思ったけれど、ギゼル助かったわね。
「それはよかったわ」
「あと、亜人の子どもたちが数人いるのですが、どうしますか?」
「他の街の子?」
「いいえ、どうやらこの街の子どもだそうです」
「呆れた。同族だけではなく同胞からも拐っていたの?心底のクズね」
私は背中をグリグリと踏んであげる。
「……」
「どうかした?」
「いえ、少し羨ましいと思いまして……」
「……趣味は人それぞれだけど。ほどほどになさいね?」
「お言葉ありがとうございます」
「あと、騎士団を呼んでくれる?誘拐に密売、武器不法所持といくらでも罪状は出てくるだろうから」
「はっ」
私は倒れ込んだままのギゼルをその場に残し、この場を後にした。
「「「おねえちゃん!!!」」」
「みんなごめんなさいね。怖い思いをさせて」
外に出るとアルト君、カミーシャちゃん、レイト君、ミミちゃんが私に抱きついてきた。
リアット君もハオルの隣で笑顔でいるし、サクリッド様も亜人の子どもたちに囲まれて微笑んでいる。
よかった。
「リアット君、ありがとう。この子たちを励ましてくれたって聞いたわ」
「……僕はお兄ちゃんだから」
「うふふ、偉いわ」
「……あのねライラック様」
「なぁに?」
「握手してもらってもいい?」
「ええ、いいわよ」
私は右手の手甲を取り、素手でリアット君の手を握った。
するとリアット君は、私の手の甲を上に向けて、
「ありがとうございました」
チュッと手にキスをくれた。
「ふふふ……どういたしまして」
こうして誘拐事件は無事に解決となった。
そんな微笑ましい様子の一方で、
「我慢したまえ……子どものやることではないか?」
「くぅぅぅ……!」
ハオルを羽交い締めするサクリッドの姿があったという。




