殲滅戦
一階の通路を真っ直ぐ進んでいくのだけれども、意外と静かね。
先ほどまで襲ってきた輩は上へと逃げたのかしら。
そう思いながらも前方や後方、ドアのある場所に意識を集中させる。いつドアが開いて奇襲されるか分からない。
だけど、そんな用心を嘲笑うかのように何も起こらなかった。
そんな道中を進んでいると、上に向かう階段を見つけた。
一直線のオーソドックスな木造の階段。
(いるわね)
階段という不安定な足場、呼んできた仲間で待ち伏せをかけるなら絶好の場所。
(上等じゃないの)
私はそれがわかっていながらも悠々と階段を昇っていく。
「うらぁぁぁ!」
階段を中段まで昇ったところで、二人の虎亜人が襲いかかってきた。
勢いで私を階段から突き落とそうという魂胆なのだろうけど、即座にしゃがみ込むと目標を失った二人は階段から転げ落ちていった。
(さて、お次は何かしら?)
私は周囲に気を張って、どのような状況でも対処しうる意識を持つ。
そうして階段を昇りきると、
「今だ!撃てぇぇぇ!」
右側から電撃の魔導銃、左からは氷弾の魔導銃が放たれた。
多数の魔導弾が私に襲いかかってくる。
「よいしょ」
そのような状況で私はただ、一歩下がった。
階段の最上部辺りで待機していると、目の前を多数の魔導弾が行き交う。
「「「ぎゃぁぁぁ!」」」
そうしてお互いの魔導弾を浴びた人たちは痺れていたり、氷弾にぶつかり悶絶するという同士討ちの形となった。
(もう少し頭を使えないのかしら。やはり教育は重要ね)
せめて片側からだけで撃てば同士討ちは避けられたものを。
「それで?まだやるの?」
運良く弾が当たらなかった残りの人たちに問いかけると、
「ば、化け物だ!」
「逃げろ!」
散り散りになって逃げていった。
このまま後を追って成敗してもいいのだけれど、すっかり戦意喪失してしまったようなので放っておいてもいいでしょう。
そんなことよりも私はただ、上を目指すのみ。
カツンカツン。
階段を昇っていくと、木と黒鉄製のブーツが音を鳴らす。
そうして昇った先に待っていたのは、一人の亜人ではない人物だった。
白銀の軽装鎧に長剣に金髪。
そのいで立ちは騎士のように見える。
「ずいぶんと恨まれているようだけど、なぜかしら?」
そんな彼の瞳には計り知れないほどの憎悪を感じ、私は彼に問いかけてみた。
「……俺はもともと騎士だった。だが!この街に溺れ!名誉ある職を失ったのだ!それもこれも!こんな街を造った貴様が悪い!」
「知らないわよ。遊びはほどほどにが常識でしょう?女性かお酒かギャンブル、どれにハマったのかは知らないけど」
「……貴様ぁ!」
「もしかして全部?自業自得じゃない。忌み嫌う街で剣なんて持つのやめて、田舎でくわを持って畑を耕した方が人に誇れる自分になれるわよ」
「俺を……俺を!愚弄するなぁぁぁ!」
「愚弄なんかしてないわよ。農家の人たちに謝りなさい」
上段からの振り下ろされた剣を横にずらして交わすと、軽装鎧の腹に拳を放った。
「ふっ!」
だけど相手は横に飛び、私の一撃を避けた。
どうやら先ほどまでの相手とは違うようね。
「あら、鍛錬は怠っていないのかしら?」
「ふん!女ごときにやられるほど衰えておらん!」
「その言葉、嫌いなのよね。あなたを産んでくれたのは女性でしょう?」
「ママと貴様なんかを同じにするな!」
「……ずいぶんと拗らせてるわね」
見たところ三十代前半。
そんな彼のママ呼びに鳥肌が立ってしまった。
「死ねぃ!この腐りきった街の支配者が!」
「そこまで嫌うなら、さっさと出ていってちょうだい。この自己中男」
凄まじい速さで横薙ぎの剣が私の頭を狙ってくる。
ガキィィィン!
だけどその剣を片手で受け止めると、
「なっ!?」
彼は驚愕の表情を浮かべた。
「俺の全力の剣を、片手だと!?」
「正しさを失った騎士の剣なんてこんなものよ。ああ、今は騎士じゃなかったわね?用心棒かしら?」
「俺は、俺は騎士だぁぁぁ!」
「夢は寝てから見なさいな」
グイッ!
私は剣を思いっきり、引っ張っるとそれに釣られて彼もこちらに引き寄せられる。
そしてそのまま、渾身の左拳で彼の顔面を殴ってやった。
「ぐぎょっ!」
ゆらゆら……ガシャァァァン!
苦痛の叫びを放ち、その身体をぐらつかせた彼は背中から倒れた。
「良い夢を。目覚めた後は辛い現実だけどね?」
さて、目標はこの奥ね。
ああ……早く会いたいわ……ギゼル様?
高揚する心をなんとか抑えつつ、私は歩みを進めていく。
───一方同時刻、王子の私室───
「……ライラックは今頃、ベッドで眠っているのだろうか?ふっ……ゆっくりとお休み……」
思いを募らせるセイクリッドが、見当外れの妄想をしているのだった。




