急行!異国連合本部へ!
私が執務室に戻ると、既にハオルは待機していた。
黒い軽装鎧で胸の中心部には金の薔薇が輝く。
「準備は良さそうね」
「姉様こそ。その姿、久しぶりに見ましたがよくお似合いです」
「ありがとう」
髪をかきあげようとしけど、ポニーテールにしていることをうっかりとしていた。
行くあての失った指先を耳に沿って髪を流すことで誤魔化す。
「それじゃ行くわよ」
「はい」
私たちが執務室を出て玄関ホールをへと向かうと、そこにはサリーナさんを始めとする誘拐された子どもたちの母親たちがいた。
「ライラお嬢様……」
仕事終わりからそのままなのだろう。
サリーナさんは赤のドレスを身に纏っているものの、美しい顔には疲労の色が濃い。
それが身体の疲れというよりも精神的なものであることはすぐに分かる。
綺麗な淡い銀髪も乱れており、彼女の、いや彼女たちの心労は察するよりも酷いものに違いない。
「サリーナさん……それに他の皆さま!あなた方の大切な子どもたちは必ずや取り戻して参ります!なのでどうかご安心を……」
私がどれだけ強い言葉で言ったとしても、不安は拭えないに決まっている。
なのに……
「ライラお嬢様、全てお任せします。なのでご無事に帰って来てください」
サリーナさんは、微笑んだ。
それは他の母親たちにも伝わっていく。
そんな光景を見た私は、涙がこぼれそうになる。
これほどの信頼をされていること。
それが人としてただただ嬉しい。
「……はい。みんなで帰ってきますね?」
「よろしくお願いいたします……」
サリーナさんたちは、深々と頭を下げた。
そんな彼女たちに見送られ、玄関から出る。
そして馬車乗り場に向かうと、漆黒の馬体の馬が車体に繋がれてゼオンと共に待っていた。
「お嬢様、お気をつけて」
「ええ、ありがとう」
ハオルは御者席に私は馬車の中へと乗り込んだ。
「朝だし走っている馬車も歩いている人もそうはいないわ。飛ばしてちょうだい」
「承知しました。行きます!」
ヒヒーン!
馬がいななくと、馬車は急発進した。
いつもの優雅な馬車の操りではないけど、そんなことはどうでもいい。
今はただ、急ぐのみ。
孤児院が寝静まった零時頃に誘拐されたとしたら、およそ七時間ほどが経過している。
誘拐犯の目的はオークションの商品の補充なため、命の心配はないだろうけどリアット君たちは現状に恐怖しているはずだ。
みんな……無事でいてね……
ガラガラガラガラ!
馬車が走る。
眠っているナディアスの街の中を。
───日の当たらぬ地下の一室───
「うぇぇぇん!おかあさぁぁぁん!」
「大丈夫だから泣かないで」
いたずらものの男の子アルト、元気な女の子のカミーシャ、大人しい男の子レイト、のんびりした女の子ミミ。
そしてそんな子どもたちを薄暗い部屋の中で優しく抱きしめるリアット。
リアットは泣いている彼らを落ち着かせようと、慰めている。
まだ一桁の歳の子たちの中ではお兄さんになるリアットは、自身が恐怖の中でもみんなを安心させようと奮闘する。
「きっとライラック様が助けてくれるから」
「おねえちゃん……きてくれるかな……?」
「もちろんだよ。だから僕たちも待っていよう?」
「うん……」
来てくれるよね……ライラック様……
恐怖に震える身体を重ね合わせ、子どもたちは祈った。




