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「単刀直入に言いますと、デレリアット侯爵と繋がっていたのは私の弟、ギゼル・シルヴァです。私とは本部長の座を巡って対立関係にあります」
苦渋に歪むサクリッド様の顔。
先ほどまで笑っていた彼とは雲泥の差で険しい表情をしている。
「そしてグリオン男爵が密入国させた亜人の子どもたちをオークションで売りさばき、大金を得ていたようです」
「グリオン男爵?」
「ええ、先日捕まったと聞きましたが」
密入国のみかと思っていたけれど、とんでもないことを仕出かしていたのね。
でも、おそらくだけど彼自身は人身売買については知らなかったと思う。
都合の良い立場にいた彼にお金の力を使って誘惑させたのでしょう。
それにしても狡猾ね。
グリオン男爵には何も知らせず、子どもたちを受け取っていたはずの組織にギゼルの影も見せずに運用していたなんて。
それに子どもたちとは別に禁制の薬物や魔導銃なども仕入れていて、こちらが本命だと騙されてしまった。
私の諜報員をも欺くとは……悔しいわね。
「サクリッド様はどうされるおつもりですか?」
「証拠を集め、国に訴えるつもりです」
「それがよろしいでしょう。ことが人身売買ともなれば私の手に余ることです。ですが、公にするということは組織が大きなダメージを受けることになりますよ?同族である亜人たちの子どもを売っていたなんて」
「構いません。この際、弟に協力した犯罪者たちにはいなくなってもらうつもりです。それからまた一から信頼を勝ち取っていくしかありません。私もこの座を降りる覚悟はできています」
うん。
やはり信頼できる人柄ね。
「それではこちらからできることは少ないですが、できうる限りの情報を集めてみます」
「ありがとうございます。こちらとしても近日中には全てを終わらせるつもりです」
「頑張ってください」
私はソファーから立ち上がると、サクリッドに手を差し出した。
「ええ」
彼もソファーから立つと、ギュッと私の手を掴んだ。
ほんのりと冷たく、大きな手だった。
そうして彼は、屋敷から去っていく。
「途中からずいぶんと大人しかったわね?」
「ボクだって時と場合は選びます」
「偉い偉い」
「姉様……」
しっかりと我慢できた弟を褒める私である。
───ナディアス西地区のとある場所───
周囲は潰れた店舗が立ち並ぶこの一角に、ギゼルのアジトがあった。薄汚れた室内には多くの酒瓶が転がっており、不衛生さを感じさせる。
「くそ!グリオンの奴が捕まったせいで商品が入荷できねぇ!」
そんな中で木製のテーブルをドンッ叩きながら、豪勢な黒の一人用ソファーに座る男がいた。
ヤギのような角、長い銀髪は刺々しく、赤い瞳は不機嫌そうに吊り上がっており、服装は白いシャツを胸元ではだけさせ黒いズボンを履いている。
彼こそがサクリッドの弟であり、ギゼル・シルヴァだった。
「兄貴の野郎を叩き落とすにはまだまだ金がいるのによ!」
「これじゃオークションを開催できねぇ。どうするんで?」
ギゼルの隣にいる虎の耳を持つ亜人が声をかける。
「ふん……またどこぞの入国管理官の貴族を探す。その間は……」
押し黙ったギゼルがニヤリと笑う。
「子どもはどこにでもいるだろう?」
「この街の子どもを攫うんですか?それは流石に……」
「構わねぇよ!売られた方が幸せになれるってもんだ!こんな街で育つよりもなぁ!」
「……了解っす」
「ああ、あと、亜人以外の子どもを欲しがるやつもいたな?」
「ええ、人間の子どもっすね」
「ふふっ……ちょうどいい場所があったなぁ……」
「人間の子どもなんてうちにいますか?」
「馬鹿、ここじゃねぇよ。あるじゃねぇか?孤児院つう可哀想な子どもたちが暮らす場所がよぉ……?」
「まさか……レミゼラルムーンに手を出すつもりで!?」
「ちょっくら必要なものをいただくだけさ。あっちも厄介払いができてWINWINだろう?」
「そうっすかね……」
「ああん?なんか文句あるのか?」
「いえ!」
「オークションにはまだ日がある……しっかりと下準備しておかないとな……」
そう言ってニヤリと笑うギゼルの姿は悪魔そのものであった。




