王女はしっかりと見ています
セイクリッドとリリアンヌの二人が、馬車に揺られながら帰路についていた。
「お兄様、大変素晴らしい劇でしたわね」
「ああ、そうだな」
リリアンヌが笑顔で話しかけるが、セイクリッドは窓の外を眺めていて返事はおざなりなものになっている。
「結ばれぬはずの二人の愛がとても美しくて……」
「ああ、そうだな」
劇の感想を共有したいリリアンヌだったが、兄の意識がこちらに向いていないことに少々不機嫌になる。
なのでリリアンヌは兄をからかうことにした。
「ライラック様はお綺麗でしたね」
「ああ、そうだ……」
危うく肯定しかけたがセイクリッドだったが、際どいところで正気に返る。
「ふん!主演女優の方が美しかったな!」
「またそのようなことをおっしゃって。今もずっとライラック様のことを想ってらっしゃったのでしょう?」
「べ、別にそのようなことはない……」
「お兄様?本心を隠されても私には分かりますわ」
リリアンヌは小さな声で耳打ちする。
「な、何を……」
「これならば御者も聞こえませんから。お兄様はライラック様のこと、お好きなのでしょう」
そう告げられたセイクリッドは一旦身体を離すと、リリアンヌの顔を見た。
そこにはにっこりと微笑む妹の姿がある。
「リリィには勝てんな……」
セイクリッドは小さくため息を吐いた後、妹の耳に真実を告げた。
「好きだ……」
「やっぱり」
リリアンヌは兄の素直な言葉を聞いて満足したように頷いた。
「お二人はお似合いだと思うのですが、なぜかライラック様はお父様た他の貴族たちからも評判が悪いですわよね?」
「彼女の管轄するものが、あまり上品なものではないからな」
「皆様そうおっしゃいますけど、観劇されたりご遊戯されたりとなさっていますよね?」
「こっそりとだがな……」
「そうやって楽しんでおきながらライラック様のことを悪く言うのは間違っていると思います!」
「リリィの言う通りではあるが……」
「お兄様はライラック様たちにそういった偏見はありませんわよね?」
「……快くは思っていない」
「嘘ですわね」
セイクリッドの嘘をあっさりと看破するリリアンヌ。
あまりにもきっぱりと言われて、セイクリッドは呆然とするしかなかった。
「お兄様はそのような狭い心をお持ちのような人ではありません。だってお兄様はどのような方にでも優しくある人ですから」
「それは買いかぶり過ぎだ」
「いいえ。私の自慢のお兄様です」
セイクリッドは妹からの厚い信頼を否定することは出来ずに、ただ頬を掻いている。
「後、お父様なのですが……」
「ち、父上がどうした?」
「口や態度ではライラック様のことを嫌っているように思えますが、実はそれほどお嫌いではないのではないでしょうか?」
「……なぜそう思う?」
「だって、昨日のお父様のパーティーのときも片隅にいらっしゃるライラック様のことをもの憂げに見ていられましたもの。あの瞳は私にかけてくださるものとよく似ています」
ち、父上……
伏兵は意外なところにいました……
王家とレミゼラルムーン家の確執。
それは確かにあると思わさないといけないが、見破ろうとしているのは意外な人物だった。
「お兄様はお父様がライラック様をお嫌いだと思いますか?」
「……嫌っていると思うが」
「そうでしょうか……?」
うーんと考え込むリリアンヌに心乱されるセイクリッドである。
「ところでお兄様?」
「ん?なんだい?」
ようやく話題が変わりそうでセイクリッドはホッとする。
だが、
「お兄様、ライラック様はお兄様の好意に気づいていらっしゃいません。なのでここはお手紙を贈るというのはどうでしょうか?」
「きゅ、急になにを……」
「おいくつかわかりませんがライラック様もご結婚を考えられる年齢だと思うのです。早くアプローチしないと他の方に取られますよ?」
「むむっ……」
「お花とかハンカチとかちょっとしたものをプレゼントなさるのもいいですね。ですがいきなりアクセサリーや服は少し行き過ぎだと思いますので控えてくださいね?」
「そ、そうなのか?」
「はい。私は少し距離を置きたくなりますね」
「な、ならばどういったことをされると嬉しいのだ?」
「そうですわねぇ……」
兄と妹。
帰りの馬車内ではこっそりと恋愛話に花を咲かせるのだった。




