意外なお客様
「ふぅ……面白かったわね」
「そうですね。結ばれぬはずの二人が抱擁するシーンは涙が出そうでした」
私もそのシーンで泣きそうになったけどギリギリでこらえたわ。
リア嬢と別れた後、劇場に入場して観劇を終えた私たちは支配人の元へと訪れた。
「素晴らしい劇だったわ。チケットありがとう」
「そう言っていただけると幸いです」
好々爺とした雰囲気の支配人が白くなった髭をさすりながら笑う。
「ところでライラック様、お伝えしたいことが……」
「あら何かしら?」
「少々近くに寄らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ」
出入り口付近で会話をしているので、辺りにはまだ来場者たちが残っている。
あまり聞かれたくない話なのだろうか?
「実は……」
「えっ?」
支配人が伝えてくれたことは、意外なことだった。
それから私たちは劇場の階段を昇り、二階席にある個室へとたどり着く。
ここはVIP席となっているけど、ほとんど使われることはない。
なぜなら……
「失礼いたします」
コンコン。
「入れ」
「ごきげんよう。劇はどうでしたか?セイクリッド殿下、リリアンヌ殿下」
王族専用なのだから。
「……ライラック。それなりだったな」
セイクリッド殿下は冷たく言い放ったつもりだろうが、表情はにこやかね。よほど劇が面白かったのでしょう。
「何をおっしゃるのですかお兄様。素晴らしい劇だったじゃないですか……私、泣いてしまいましたわ……」
一方でリリアンヌ第一王女殿下は、ハンカチで目を拭っている。
お二方はお忍びの為か、茶のスーツに紺色のドレスという地味な服装。
だけど、王女殿下はその長く美しい金髪のおかげですぐに殿下だと気づかれるでしょう。
それほどまでにリリアンヌ様の髪は美しい。
「ライラック様、本日はチケットをありがとうございます。私、主役の俳優様の大ファンでして、お兄様にどうしてもと言って連れて来てもらいました」
「そ、そうですか……喜んでいただき光栄です……」
リリアンヌ様は天真爛漫な御方で、私を嫌っていない。
というよりも嫌っているものはいないのであろう。
その無邪気さから人々は天使だと褒め称えている。
ただ、周囲に誰もいないこの状況ならいいのだけど、パーティーなどでこういう風に親しげにされると少々困ってしまう。
リリアンヌ様の評価に関わってくるから。
だけども私から遠ざけるわけにいかない。
なのでセイクリッド様に小さな声で伝えてみた。
(リリアンヌ様は相変わらずなのですね)
(うむ……あまり親しくするなと言ってあるのだが……)
(お聞きにならないと?)
(ライラック様は良い方ですわ。と言って譲らんのだ)
(意外とお強い方ですね……)
ほわほわした風に見えて、自身の評価は曲げないところにリリアンヌ様の強さが見える。
「お兄様とライラック様は仲がよろしいのですね」
「い、いや!そんなことはないぞ!」
「そうですか?お兄様のライラック様を見つめる瞳はとても優しげに見えますが?」
「き、気の所為だろう!」
それに比べてセイクリッド様は演技が下手ね。
素晴らしい演劇を鑑賞した後だからか、笑ってしまいそうなほどに。
「ライラック様はお兄様のことをどうお思いで?」
「素晴らしい方だと思っております」
「なら、婚約者になられてはどうですか?」
「……はぁ?」
その場にいる全員が呆然とした。
「お兄様には決まった方がいませんしライラック様もいらっしゃいませんよね?私はお似合いだと思うのですが」
「こ、こらリリアンヌ……冗談はよさないか……」
殿下、なぜそのようににこやかなのですか?
違うでしょう?
「異議があります!」
「あら、ハオルシア様。どうなさいましたか?」
「姉様には王太子妃なんて務まりません!」
「どうしてですか?」
「そ、その……姉様はこう見えて屋敷ではだらしなくてですね!気品なんてありませんから!」
ハオル?
後で覚えてらっしゃい?
「そんなところも素敵ではありませんか?うふふ」
「そ、そうですか……」
リリアンヌ様はにっこりと微笑んだ。
うぅ……笑顔が眩しい……
影の存在である私とハオルには眩しすぎ笑顔だった。
「ほ、ほら!もうこんな時間だ!急いで帰らないと父上に怒られるぞ!ただでさえ無理を言って出てきたのだから!」
「まあ!そうですわね!それではライラック様、ハオルシア様、ごきげんよう」
「はい、本日はご来場ありがとうございます」
何とも美しいカテーシーを見せ、セイクリッド様の後を追いかけていく。
「はぁ……僕はリリアンヌ様のこと、苦手ですね……」
「あら、私は好きよ?お日様みたいな方だしね」
いろいろと気苦労もあるだろうけど、それらを一切見せないリリアンヌ様を私は尊敬している。
「ところでハオル?少しお話しがあるのだけど?」
「ね、姉様……顔が怖いです……」
「どうしてかしらねぇ……?」
「ごめんなさい!ああ言うくらいしか思いつかなくて!」
「えいっ」
グリグリ。
「姉様痛いです!」
私はハオルの頭の端を拳でグリグリとしてあげた。
悪口なんて許さないわよ。




