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スレ番9が退職するまでの顛末『よし、とりあえず退職だ』

 スレ建てようと、スマホをみたら異様なまでに時間が経っていた。

 神域に連れてこられたのが、夕方の6時位で、俺の体感だと1時間程度しか経っていなかったんだけど、スマホの時計は夜中の4時。

 俺は思わずスマホを二度見した。やっぱり4時、もちろん真夜中だ。

 今度は腕時計を見る。こっちは夕方7時を指していた。


 そうだった、神域って時の流れが人間世界の1/10になるんだった。言い換えれば人間世界の時間の流れは、神域のそれより10倍速く進む。


 まだ会社に行かなければならない俺にとって退社後の時間を神域で過ごすのは、休息時間を1/10すると言う自殺行為に他ならない。


 会社辞めるのは確定だし、会社辞めたら本格的にめーちゃんの手伝いをするから、神域にいてもいい。

 けど、辞めるまでは人間世界で暮らさないと、もう若くない俺の体力が保たないよ。

 めーちゃんから話には聞いてたが、実際に自分が体感しないと、その異常性には気が付けないものらしい。


 人間世界に一旦帰って、会社行く準備しないと、さすがにマズい。

 リストラ宣告されてるから、仕事へのモチベーションはないけど、社会人として遅刻はダメだ。


「めーちゃん、一旦人間世界に返してくれない? 明日の会社の準備しないとだから……」


「えっ? 会社辞めさせられるんだよね? なんで会社行くの?」


「まだ辞めてないからね。『会社を辞めてくれ』といわれても、辞めるまでは会社行かないとダメなんだよ」


「そんなのおかしいでしょう? 会社がリュっちゃんをいらないと言ったのに、神であるわたくしからリュっちゃんを取り上げるなんて、リュっちゃんの会社は神に楯突けるくらいの存在なのかしら?」


 めーちゃんの茶色の黒目が、深紅の瞳に変わり白目は黒く変化する。

 そして何より天真爛漫な光に溢れていた視線は、冷ややかな強者のそれへと変わっている。


 俺が先ほど『退いて』って言った時とは比較にならないくらいヤバい。


 めーちゃんが周囲の空間に小規模の雷を発生させてるようで、空気は比喩でなくピリピリしてるし、心なしか空気がヒンヤリしている。


「神に楯突く傲慢な会社は断じても問題ないわよね、リュっちゃん?」


 ハイって頷きたい。


 でも頷いたら、絶対にいけない気がする。


 多分頷いたら、幼なじみという対等な関係から神と人間と言う、上位存在と下位存在と言う関係に変化してしまう。


 ここで頷いたら、表面上の関係は変わらなくても、俺の魂がめーちゃんと言う存在に屈伏させられてしまう。


 めーちゃんは変わらなくても……いや違う。

 多分無意識でめーちゃんは変容して、魂の根底が神となってしまって、今までのめーちゃんは消えてしまうんじゃないか。


 再会して時間は経ってないけど、幼い頃の思い出は何故か、つい昨日のように鮮明で地続きになっている。

 会っていなかった40年がなかったかのように、めーちゃんと言う存在は俺の中で大きい。


「めーちゃん、断じたらダメだ」


「何故? 折角会えたリュっちゃんをわたくしから奪う存在は断じて当然でしょう」


「確かに俺はリストラ宣告されたけど、多分そうでなかったらめーちゃんと再会しても、めーちゃんの手伝いは断ったかも知れない。会社にリストラされたから、めーちゃんの手伝いをしようって即決出来たんだ」


 その言葉にめーちゃんの黒目が深紅から茶色に、白目が黒から白へと変わる。


「そうは言っても、リュっちゃんは会社行く為にわたくしから離れるんでしょう? 折角会えたのにまた離れるなんてイヤだよ」


 唇をギュっと閉じ、瞳には涙が浮かぶ。これはめーちゃんが何かを我慢したり、感情を飲み込もうとするときの顔だ。


 なんで俺が1人で人間世界に戻るのを、めーちゃんが嫌がるかは分からないけど、別に1人で戻るつもりないんだけどな。


「もしめーちゃんさえ良ければ、俺の家に来ない? 俺の家で待っていたければ待っててもいいし、俺のいない間は神域にいれば、待ち時間は1/10になると思うし」


 その発言で、めーちゃんの周囲の雷と、空気の冷たさは消えた。


「えっ、リュっちゃんのいない間、リュっちゃん家で留守番するの? いいかも……」


 どの発言が功を奏したかは良く分からないが、どうやら危機は脱したっぽい、助かったー。


 めーちゃんの顔が心なしかニヤけてるようにも見える。

 しかし直ぐに怒りをを思い出したかのように、ニヤけた顔を取り繕う。


「一緒に住めるのは嬉しい、とても嬉しいよ……でもリュっちゃんの会社を断じるのとはまた別の話よね……でもまぁ、一緒にリュっちゃんと暮らせることに免じて、断じるのはまたの機会にするね」


 えっ? 断じるのは確定なの?


 視線は冷ややかなのに、天真爛漫な笑顔ってのが怖すぎる。

 とにかくこれ以上は深堀りしちゃマズい気がして、俺は少し強引に話題転換をする。


「そ、それじゃ、早速俺たちの家へ帰ろうか、めーちゃん」


「俺たちの家……えへへ」


 話題転換はなんとか成功したようで、めーちゃんの表情が花咲くように明るくなる。

 俺もこれからめーちゃんの期待に添えるように、手伝い頑張らないとな。


「俺、頑張って手伝いするからさ。めーちゃん、何でも言ってね!」


 俺のその言葉に、花のようだっためーちゃんの表情が一瞬でスンって元に戻った。


 そうじゃない……って、めーちゃんは言ってたみたいなんだけど、俺が働き過ぎないように気を使ってくれてるのかな?

 会社では残業月100時間レベルでこなしてたから大丈夫だと思うけどなぁ。


 他に何か意味があるのかな? うら若き乙女の心はおじさんには良く分からないかも知れない。


 そうして俺たちは神域を後にし、何とか2人で自宅へ戻る事が出来た。

 しかし実はめーちゃんの怒りが神域の部屋の天井に穴を開けていたのだが、その時の俺は知る由もない。

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