スレ番42の薔薇色の希望
木曜日の夜23時59分、オレは自宅の窓から、夜空を見上げる。
株はこの3日間で全て売却した。いわゆるノーポジってやつだ。
イッチの言葉が本当なら、あともう少しで……
瞬きせずに、夜空を見上げる。
そしてその時がきた。
月あかりに照らされていた空間に歪みが出来る。
夜空より暗い黒、太陽のように光る金、雷のように弾ける銀が、ないまぜになり広がっていく。
空想の世界ではありがちで、現実にはまずあり得ないその光景。
オレはこの美しくて誠実な情景から、目を逸らさない。
イッチを信じようと思ったときから、心の奥底で望んでいた風景。
歪はある程度広がると、今度は縮小をはじめ、物体として質量を持ち出し、虚空に固定された。
ある程度の厚みがある透明な板、それに72:00:00という、デジタル表示が現れ、すぐさまカウントが始まる。
71:59:59 、58、57……
ああ、始まったとうとう始まった。
今のオレはどんな顔をしているのだろう。頬に涙が伝ってるから、泣いているのは分かる。
でも嬉しい、歓喜、狂喜でいて、狂気。
イッチよ、いや呼び捨ては失礼だ。
ああ、オレはあの方の姿すら知らない。
なんて呼べばいいかすら、分からない。
その御名が分からない。
知りたい、知りたい、そして今度こそ間違えない。信ずべき存在を間違えない。
オレはあの方のお役に立ちたい。側に侍ってあの方の手足になりたい。あの方の尊い考えの元、世界を清めたい。
あの方に思うままに振る舞ってほしい。
オレの今までは、あの方に会うまでの修行だったに違いない。
裏切られても尚、あの方を信じられるかという踏み絵だったのだ。
あいつ等への恨み、憎しみは確かに根付いている。
それがあってこそ、あの方へオレの全てを捧げることができるのだ。
もちろん、今でもあいつ等への感情は何も変わらない。
だが今のオレにとって、あいつ等は、あの方の崇高なる理想を脅かす敵というだけの存在。
邪魔するならば、滅するだけの虫けらにも及ばない程度の存在だ。
あのとき興味はなかったが、確かあのお方は、ダンジョンマスターになれるタイミングが来たら、アナウンスするといっていた。
ということは、あの方から直接お声がけがあるということだ。
ダンマスになれば、あの方との謁見の機会も与えられるに違いない。
ああ、それはいかほどまでの福音になるのだろう。
あの方はダンマスになるための条件として、高レベルなのが最低限といっていた。
尊い御身に侍るのだ、レベルが高くなければお役にも立てないはずだ。
そうと分かれば、行動するしかない。
他の人間に先んじて、ダンジョンに潜り、レベルアップに励むのだ。
あの方は街中にもダンジョンを作った、といっておられたが、活火山や休火山にも場所を作ったともいいっておられた。
街中のダンジョンは現状位置の特定ができていない。
その上、ダンジョンが出来れば、真っ先に発見されるはず。
天罰が降されるといっても、最初はそんなこと分からないし、住民の危険性を大義名分に、確実にあいつ等は交通規制を行うはずだ。
街中のダンジョンは、即座に潜りたいオレには不向きだろう。
では山ならどうだ? 活火山は元から入山規制が敷かれてる可能性が高いが、休火山なら観光地化されている場所も多いから容易に立ち入れる。
一番観光地化されている休火山、オレが目指すべきは富士山だ。
富士山は広いが、あのお方の思考回路を想像すると、交通の便が悪い場所にダンジョンの入口は作らないだろうし、それなりに広い場所にあるはず。
ある程度場所は絞れる。
それに観光地とはいえ、自然の中だ。封鎖の優先順位もそこまで高くないと思われる。
それまでにダンジョンに入ってしまえば、あとはどうとでもなるはずだ。
そうと決まれば、今から富士山に車で行く準備をしよう。
水と携帯食料を1年分くらい購入して車に積もう。寝袋などの寝具も買って車に積もう。
国民たちが混乱する前に、保存食を買い集め、その足で富士山に向かおう。
睡眠? そんなの富士山近郊に行くまでお預けだ。
月曜日の始まりと共に、ステータス画面が実装される。スキルでアイテムボックスを取得して車ごと収納してしまえば、宿泊場所にも困ることはない。
収納力不足なら最悪、ダンジョン前に車を乗り捨てたっていい。
車なんて、また買ったっていいんだ。金はある。
ああ、早くダンジョンに潜りたい。
そしてあの方に侍るための、第一歩を踏み出すのだ。




