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スレ番42の漆黒色の事情

「なぜです、課長! あんな悪質な不正、なかったことになんてできませんよ! 告発すれば不正の大元である大臣の政治家生命だって絶てるんですよ!」


 一緒に不正に関する調査をしていた課長に省の会議室に呼ばれたオレは課長の言葉に納得出来ず、思わず声を荒げた。


「不正はなかった、なかったんだよ……桂くん。残念だよ、君がそんなデタラメなことを言って省内の和を乱すような人間だとは思わなかった」


 課長は何をいってるんだ? つい昨日まで、一緒に不正を調べていたじゃないか……


「国のためにってがんばろうって、寝る間も惜しんで働いていたじゃないですか! 証拠だって揃えてオレに『矢面には自分が立つ』といって、告発の証拠だって課長が……」


「証拠? 何をいってるんだい? そんなものこの世には何も存在していないのだよ。そんな有りもしない妄想を並べて……そうそう君には権限以上の情報を不当に閲覧した疑いがかかってる」


「あれは課長から許可を頂いて……」


「許可? 私は何も許可なんてしてないが…… 人に罪をなすりつけないでもらおうか? 私が上に報告すれば、国家公務員法違反で君に前科を付ける事だって出来るのだからね」


「そんな! 納得できません!」


「納得出来ようが、出来まいが、そういうことなんだよ……桂くん」


 課長が席を立ち、オレに近づくとポンっと肩を叩く。


「まぁ、君のおかげで私は次の人事で局長だ……ありがとう、近いうちに上から依頼退職の相談があるだろうから、断らないでくれよ?」


 人の悪意が全て詰まったような微笑みだった。

 その瞬間、全てを理解した。

 課長は最初から不正を暴くつもりなどなかったのだ。

 オレに巧みに近づいて、協力するふりをして、オレの告発を自分の出世の踏み台にするつもりだったんだ。


 そうして課長は会議室を後にしたが、オレは裏切りの重さにその場を動けずにいた。


 いつ自分の机に戻ったのか分からない、それでも今、抱えてる仕事はしなければとの思いだけで戻ってきた。


 会議室でも地獄だったが、その後も地獄だった。

 課長が若手たちを抱き込んだのだろう、オレの指示をほとんど聞かなくなったのだ。

 資料集めを指示しても、後に回され、締め切りすぎても用意をしていない。

 説明用の書類作成を指示しても、返事だけで全く取り掛からない。

 今抱えてる仕事の全ての作業を自分でしなくてはならず、間を置かずしてオレは倒れた。


 そして表向きは病気療養のために依頼退職させられたのだ。

 裏では省の組織防衛のため、権力者の保身のための社会的抹殺のために……


 -−−−−−−−−−−−



 悪夢を見た。3年経ってもこびり付く悪意の残滓。

 ベッドから起き上がれば、寝汗で身体全体がびっしょり濡れている。

 あまりの不快感に顔をしかめ、オレはシャワーを浴びる。


 思い出したくないのに、忘れられないあの記憶。

 夢をみる度、胸を掻きむしりたくて、泣きたくなる。

 なのに、悔しいと思ったら負けだ、泣いたら負けだ、との思いに現状を悲しむことすら出来ない。

 どう客観的に見ても負け犬なのに、それを認められずにいる。

 だったら新たな一歩を踏み出せばいいのに、人が怖くて引きこもってる自分がいる。

 どっちつかずの自分が心底嫌だ。


 誰かに慰めてほしい、だけど心は預けたくない。

 もう一度あんな目にあったら、自分は心身共に死んでしまう。


 シャワーに溶けて、こんな気持ち体から流れてしまえばいいのに……


 オレはシャワーを止めて自室へと戻った。

 今日は月曜日、もうすぐ株式市場が始まる。しかし今日はトレードする気になれなかった。

 こんな日に無理にトレードしても負けがかさむだけと思って、夕方までぼんやりと過ごすことにする。

 

 夜になって、やっとネットを見る気力程度は戻ってきた。

 悪夢に魘されたオレには、匿名掲示板の適度な距離感がいつもより心地良い。


 いつもの通り氷河期世代板を巡回する。最近はついつい、とあるスレを探してしまうのだ。


【氷河期世代は】氷河期世代救済のためダンジョン作ることになった。意見求む【潜在能力高く設定しています】



 オレが42というコテハンで、書き込んでいたスレ。

 最後に巡回したときは新しい書き込みがなく、また少しスレの位置が下がっていた。


 そして今日、板の巡回のために匿名掲示板を開いたら、スレの順番が上がっていたのだ。


 誰かが保守したのかもしれないと思いつつも、あのイッチがもう一度やって来たのかと期待してオレはスレを開いた。


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