スレ番9の『新しい世の中が始まる直前に』
「問題ないなら、俺にも条件教えてもらえる?」
めーちゃんが木花之佐久夜毘売に出された条件は簡単にいうと、こんな感じだった。
ダンジョン作るのを了承する代わりに、ダンジョンの初踏破者を木花之佐久夜毘売の眷属とするというもの。
どうやら、この神さまも俺の食事は気にいったらしい。
だが、めーちゃんへの対抗心からか、プライドが許さなかったからかは分からないが、俺の料理だけでは了承しなかった。
しかし美味しい食事は欲しいみたいで、だったら専属の人間に作らせればいいと思ったようだ。
そういう訳で眷属が欲しいらしい。
大局的に見れば、了承すべき条件なんだよ。
1人が犠牲になるだけで、全ての計画が上手くいくんだし。
それはその1人を蔑ろにするって事にほかならない。自分の意思とは関係なく、強制的に眷属にされるのだ。
昔、国が氷河期世代にした事を、俺たちがその1人に強いる事になる。
そんな事は絶対あっちゃいけない。
でも、この条件自体は飲まざる得ない。
出来るだけ、その1人に対して有利な条件を付けなければ……
俺は頭をフル回転させた。
まず何をさせるのかを教えないで、眷属にするのはダメだ。
もし眷属が料理下手の人間だった場合、双方にとって最悪な結果になりかねない。
それと強制的に眷属にしちゃダメだ。
眷属にするなら、初踏破者に許可を取ること。
でないと、この神さまを良く思って食事作らない可能性があるから、超絶不味い食事しか作れない事もある。
あと労働条件だ! ブラックよろしくな働き方は絶対阻止せねばならない。
眷属になる人が決まったら、労働条件について俺たちを含めて話し合いをさせてもらおう。
せめてアフターケアはしないと……
俺は考えた追加条件を伝え、何とか、めーちゃんにこれで了承してもらうように、お願いした。
これで何とかなるといいんだけど。
そして交渉した末に何とか、折衷案を飲ませる事が出来るのだった。
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何とか富士山にダンジョン作成出来るようになってよかった……
俺は最初に呼ばれた神域で、めーちゃんの舞の準備をしながら、予告からカウントダウンまでの苦労に想いを馳せていた。
まあ、俺にとってはこれからが苦労の本番なんだけどさ。
発端は木花之佐久夜毘売への説得に天津神閥、国津神閥関係なく神さまが、一致団結して協力してくれるって話からだった。
めーちゃんとしては、ありがたくその話を受けたんだけど、この申し出には少しだけ裏があった。
代わりに俺の料理をもっと食べさせろって、神さまたちが言ってきたんだよ。
いや、料理を振る舞うのはいいんだよ。
嫌いじゃないし、最近はめーちゃんのおかげで料理のスキルも上がってきたし……
問題は料理希望の神さまたちの人数と、欲しがる料理の種類が多種多様だという事なんだ。
あと時期の問題もある。
料理希望の神さまが、とにかく多過ぎる!
10人程度なら個別対応できるけど、八百万は無理無理無理無理!
希望する料理の種類にしたって、メジャーな国の料理はまだいいんだよ。作った事あるものが多いしさ。
でも俺が聞いた事ない国の料理なんてどうやって作れっていうんだよ!
正直言って、俺が食べた事のない料理は美味しく作る自信ないよ。
あとすぐには無理だ。
準備期間も必要だし、何よりダンジョン開始直後は社会の反応や作ったダンジョンの調整なんかに忙しいだろうし。
ただでさえ神域と人間世界は時の流れが違うのだ。
料理振る舞うのに神域に1日滞在すると、人間世界では10日間経っている事になる。
さすがにダンジョン開始直後に、そこまでの期間、人間世界を留守にするのは厳しい。
とりあえず知らない国の料理は下調べと練習に時間が欲しい事と、同じ国の料理希望の神さまには、まとめてビュッフェスタイルでの提供をお願いした。
料理を振る舞う時期に関しては、こちらの事情を説明して要相談である事を、めーちゃんに説明してもらった。
いやあ、それに対しての返事に、俺は神さまたちの本気を見たね。
知らない国の料理の練習と、ビュッフェスタイルは問題なく受け入れてもらった。
特にビュッフェスタイルは、物凄く喜ばれた。
希望した料理以外の料理も食べられるのが、神さまたちには、ラッキーだったようだ。
時期に関しては、神さまみんなが協力すれば、人間世界の時間なんて簡単に止められるから、人間世界での都合は無視して構わない。
知らない国の料理の練習時間とビュッフェスタイルで提供する料理の、準備時間だけを考慮して日程を組んでくれ。
……って言ってたみたいなんだよ!
めーちゃんに「本当に時間止められるの?」って聞いたら、みんなが協力すれば、簡単にできるって言うし。
神さまたち、どんだけ美味しい食事に飢えてるんだよ。俺の料理なんて素人に毛が生えた程度だぞ……
神さますげぇ! そして怖えぇ! とも思ったよ。
何でも人間世界の時間を止めるよりも、神さまが一致団結して協力するって方が難しいらしい。
日本に古来よりある『和を以て貴しとなす』って精神は何処いった……
あと神さまは時間感覚が人間と違うから、人間時間で半年位なら余裕で待てると思うよ……って、めーちゃんに言われた時は、スケール感もすげぇなって圧倒された。
なんか、めーちゃんからすると、神さまを一致団結させた俺の方が凄いって話になるみたいで、尊敬の眼差しで見られた時には、ちょっと焦ったな。
さすがに料理くらいで、時間簡単に止められる存在に尊敬されるっていうのは……ねぇ。
「リュっちゃん、どうかな? 似合う?」
神さまに振る舞う料理について考えていると、衣装を整えに別の神域に行っていためーちゃんが戻ってきた。
その出で立ちは神々しい、その一言に尽きる。
いつもはツインテールにしている髪を下ろし真ん中分けにして毛先のあたりで緩く1つに結いている。
額には太陽をかたどった飾りを付けており、耳には勾玉のイヤリングが小さく揺れていた。
顔には薄く化粧が施されており、目尻には赤いシャドーがピッと引かれていて、ただでさえ魅力的な瞳を、更に引き立たせている。
頬にも薄桃色の紅がさされていて、いつもに増して円やかなそれを強調していた。
瑞々しい唇は目尻のシャドーと同じ色の紅によって彩られている。
紅をさしていない、めーちゃんも魅力的だが、化粧を施しためーちゃんはいつもと違う神秘的魅力に満ちあふれていた。
それは服装に関しても同じ事が言えた。
白い薄手の布を幾重にも重ねた巫女のような衣装に身を包み、右手には榊、左手には幾重にも鈴が付いた細い棒を持っている。
「似合ってるなんてもんじゃないよ、めーちゃん。美しくて神秘的で神々しいよ……まるで女神様だ」
「いやだなぁ~、リュっちゃんってば、アタシ神さまだよ?」
楽しげな声を聞けば、いつものめーちゃんで俺は安心する。
衣装を纏っためーちゃんは少し近寄り難い雰囲気があって、いつか俺の前から居なくなってしまうのではないかと思ってしまったんだ。
「んじゃ、そろそろ始めようかな……」
部屋に用意した水鏡で地上にあるカウントダウンディスプレイを見れば、残り時間が10分を切るところであった。
めーちゃんの言葉に、俺は舞踏場の外れに待機した。今回の儀式では、一応めーちゃんの従者として、後ろに控えることになっている。
めーちゃんと俺は顔バレ防止のため、鼻から下を覆うように薄い1枚布を身に付ける。
そしてめーちゃんがシャラリと鈴を鳴らした。
これが開始の合図だ。
全ての国民へ、めーちゃんが権能を振るうための儀式が始まる。
俺たち氷河期世代が失ったものを取り戻すための反撃の狼煙が今、上がり始める。
でもこの時、俺は狼煙が上がった後の将来的な展望なんて、明確に考えていなかった。
政府が搾取しようものなら、力を与えた氷河期世代が抗うだろうし、最終的にはめーちゃんが権能を振るうと思っていた。
氷河期世代に力を与えた後の俺の役割りなんかは、掲示板を巡回して氷河期世代の意見を直に聞いたり、素性を隠して一般人氷河期世代としてダンジョンが上手く機能しているかを確認し、問題ありなら対処法を考えるくらいだと思っていた。
それに精々プラスしても、神さま方に定期的に料理を振る舞うくらいだと考えていたんだ。
だけど、そうじゃなかった。
そうじゃなかったんだ……




