スレ番9の『知らない間に料理外交が始まっていた件』
今年もよろしくお願いします。
「それで、相談って?」
用意した紅茶をすすりながら、俺はめーちゃんに問いかける。
めーちゃんと暮らすまでは、紅茶は黄色いパッケージのパックを使っていた。
最近では少しでもめーちゃんに美味しく食べてもらえるよう、オヤツに合わせて茶葉から淹れるようにしている。
「あー、リュっちゃんのケーキと紅茶、すっごく美味しいー、生き返るー」
ケーキと紅茶をひとしきり楽しんだあと、めーちゃんは相談内容を口にする前に、相談に関する前提情報を話しだした。
「多分、まだ言ってなかったと思うんだけど、アタシの神様としての名前は天照大御神っていうんだよね」
「えっ! めーちゃん、アマテラスなの? じゃあ、めーちゃんじゃなくて、あーちゃん?」
そういえば、何の神さまなのか疑問に思ってて、いつか聞こうと思ってたけど、忙しいのと、めーちゃんとの生活が楽しくて、すっかり忘れてたよ。
めーちゃん、俺でも知ってる超大物神さまで、ビックリしたな。
「本名は芽吹だよ。天照大御神は、役職名みたいなものかな」
めーちゃんの説明によると、日本の神さまの名前というのは、日本でいう「総理大臣」とか「官房長官」みたいな役職名称との事。
「で、アタシは第10代目天照大御神ってわけ」
意外に前任の神さまたちが少ないな。そういえば神域って時間の流れが、人間世界の1/10だったか。
そう考えると、在位が人間世界時間で1人につき200年としても、初代が2000年前か。
歴代の神さまによって在位に長短あるだろうから、まあ妥当といえば妥当な人数なのかな? よく分からないけど……
「アタシがいるってことは他の神さまもいるわけで、相談っていうのは、他の神さまに関することなんだよねー……」
説明によると、日本の神さまにも大きく2派閥があるそうで、1つが天津神閥。
めーちゃんの役職である『天照大御神』は天津神閥の役職らしい。
めーちゃんが『天照大御神』になったのも、本人の能力の高さもあるが、天津神閥一門の生まれだからというのも大きいそうだ。
で、もう1つの派閥が国津神閥。『建速須佐之男命』が有名な神さまとの事。
この国津神閥の神さまも日本には多く存在しており、天津神閥同様、国津神閥の神さまには国津神一門の者が就くそうだ。
「でね、木花之佐久夜毘売がイジワルするのー」
今の説明を踏まえて、めーちゃんの相談というのは、国津神閥の『木花之佐久夜毘売』という神さまについてらしい。
「どんなイジワルをするの?」
「山にダンジョン作るのにイジワルするのー。前の『木花之佐久夜毘売』お姉ちゃんは優しかったのにさ……」
精々、愚痴レベルの相談かと思ったんだけど、ダンジョンに凄く関係する相談だった。
めーちゃんの話によると、そもそも山というのは、信仰の対象となってるところも多く、そういう場所は大抵神域化されてるそうだ。
神域となった山には司る神さまがいて、神さま的な山の所有権は司っている神さまにあるそうだ。
それはダンジョンを作ろうとしている活火山や休火山も然りという。
強権を発動すれば強引にダンジョンを作れるそうだが、軋轢は少ない方がいいようで、一応了承をとってからダンジョンを作るのが推奨されてるみたい。
神さまの世界も根回しって大事なんだな……社会人時代に嫌ほど思い知ってるよ、うん。
なるほど、めーちゃんはその根回しでイヤな事いわれたわけか……大変だな。
「大抵の神さまは、すんなり『いいよ』っていってくれるんだよ。めんどくさいことしないでよくなるからさ」
山がなるたけ噴火しないように神さまも気をつけているようで、山のメンテナンスは司る神さまの仕事らしい。
ただ神さまたちは細かい作業が苦手だったり、少し人間と認識がズレてる事が多いようで、完全に噴火を抑えることは難しいとの事。
そういえば、前にめーちゃんも『噴火させて後始末した方が楽』とかいってたな……そういう感じかな?
だから大抵の神さまは「ダンジョン作りたい」といえば、仕事が減るので「どうぞどうぞ」とすんなり了承してくれるのだそうだ。
「でね、残りの神さまも最初ゴネてたんだけど、リュっちゃんが作ったお菓子持っていったら、すぐ『いいよ』っていってくれてね、大丈夫だったんだよ! ありがとうね」
え~と、色々ツッコミどころはあるな。
まぁ、とりあえずめーちゃんの説明によると、ゴネてたのは国津神閥神さまの一部らしい。
天津神閥と国津神閥はライバル関係にあるそうで、日本をよくしようという事で一致はしているものの、対抗意識からか上手くまとまらない事も多いそうだ。
うーん、この辺りは人間世界と変わらないんだな。
そこで役に立ったのが、俺のお菓子だという。
ここのところ、神さまの食事に大事な成分の1つである『祈り』が不足する事態に陥っており、神さまたちの食事の質がだだ下がりしていたようだ。
そこで、めーちゃんが試しに俺のお菓子を持って行ったところ、国津神の方々に大好評を頂き、すぐに了承が得られたそうだ。
めーちゃん用の食事なのに、国津神の方々でも美味しいのかが疑問だったが、やはりめーちゃんが俺の食事を食べるほどの美味さはないらしい。
ただ神さまという部分がめーちゃんと同じなので、そのあたりが作用して、国津神の方々がいつも食べている食事より数倍は美味だったとの事。
まあ、俺のお菓子が役に立ったのなら何よりだ。
「だけどね、木花之佐久夜毘売だけは、お菓子だけで『うん』と、いってくれなかったんだよ」
一柱だけだから問題なくない? とも思うんだけど、めーちゃん曰く国津神閥の『木花之佐久夜毘売』は、山にダンジョン作る上では避けては通れない存在らしい。
『木花之佐久夜毘売』は色々な山に祀られているが、その大半の山は他の神さまも祀られている事も多いので、別の神さまに執り成してもらい、ダンジョン作成の了承を取ったようだ。
だが富士山だけは、『木花之佐久夜毘売』の力が強くて、どうにもならないらしい。
「うーん、じゃあ富士山だけ、ダンジョン作らなくてもいいんじゃない?」
「アタシもそうしたいんだけど、そうすると結構面倒なことが起こりそうなんだよー」
富士山というのは、地脈の力も龍脈の力も凄くて、今回のダンジョン作成においても重要なエネルギー源らしい。
なので木花之佐久夜毘売を無視してて、事を進めようものなら、拗ねて富士山のエネルギーを使えなくされる可能性があるとの事。
「あー、それは……」
正直、面倒どころの騒ぎじゃあない。ぶっちゃけこの問題を解決できないと、ダンジョン計画の根底が覆される可能性が高い。
「でね、ダンジョン作るのをOKする代わりに、条件を付けてきたんだよ」
「条件? 余程酷い情報でなければ飲んでもいいと思うけど?」
「アタシもそう思うんだけど、その条件が酷い条件なのかが、よくわからなくて……」
めーちゃんが判断に困る条件って、その神さまはどんな条件付けたんだ?




