スレ番9の『美少女がベッドからこんにちは』
「リュっちゃん、おはよ~」
めーちゃんのそんな声で俺は目覚めた。
掛け時計を見ると、午前9時いつも起きるより遅い時間だ。
よく寝たなぁ……無職2日目、昨日は外出予定があったから、働いてた頃と遜色ない時間帯に起きたけど、今日は出掛ける予定もないから目覚ましかけなかったんだっけ。
ついつい朝寝坊しちゃったなぁ。これから二度寝もできるんだよな……どうしようかな?
頭もまだボーッとするし、答えをすぐに出す必要もないか。
一旦寝返りを打とうと、体勢を仰向けから横向きに変えるため体を動かそうと、とりあえず首を右に向けた。
「めめめめめめめめめーちゃん?!」
俺の右腕を枕にしてめーちゃんが、布団からひょこりと半分ほど顔を覗かせている。
「リュっちゃん、あったかい」
めーちゃんはハリがあって、柔らかい頬を俺の胸の上に乗せていた。右腕が俺の腹の上を通り、腰に巻き付いている。
「心臓の音が凄く早いね、リュっちゃん」
めーちゃんが巻き付いている腕の力を強めると、胸から腹の横にかけてムギュッと詰まった膨らみが、ポヨンと俺に存在感を更にアピールしてくる。
美少女と同衾、駄目、ゼッタイ!
眠気もどこかへぶっ飛ぶほどの衝撃だ。
俺は勢いよく飛び起き、布団を跳ね上げ、ベッドから転げ落ちる勢いで床に避難。めーちゃんから距離を取った。
ベッドの上でめーちゃんが俺のほうを向いて、不思議そうに横たわっていた。
「何で、なんで、ナンデ、ナンデ……」
まず最初に出てきたのは、何でという言葉だけだった。
だって昨日寝た時は、めーちゃん押し入れ神域にいたんだよ?
一昨日、初めて寝室で寝た時はちょっと緊張したんだよ。
再会してからめーちゃんって、物理的な距離感が少し欧米的だからさ。
でも一昨日は特に何もなかったから、疑った俺に疚しい気持ちが欠片でもあったんだと思って、少し自己嫌悪もしたんだよ。なのに、何で今になって……
「ちょっと前に、『日本をダンジョンするのはラノベとかでよくある発想』って、リュっちゃんいったよね」
言ってた、それは自覚ある。
「アタシが朝起きたら、まだリュっちゃん寝てたから、アタシもそのラノベ読んで勉強してみようかと思ったの」
考え方は分かるし、発想も健全だな。
「無料で読めるサイトにたくさんあったから、目についたのを片っ端から読んでみたの」
新しい作品探すときは俺もそれやるし、行動原理に何らおかしいところはないな。
「そうしたら、幼なじみの女の子や女神様とかが、朝起きたら布団に一緒に入ってたってことが結構あって、よく読んでみると話の中で男の子も嬉しかったり、ドキドキしてたから、コレだ! って思ったんだ」
俺は片手で顔を覆った。
原因はそれかぁ~。
「リュっちゃんも、読んでるみたいだから、効果あると思って……それで喜んでくれた?」
めーちゃんは起き上がると、上半身を少し前かがみにし、両腕でたわわな胸を挟み込み谷間を強調する。
いやいやいやいや……確かにあれは思春期男性の夢ではあるよ。
でも現実では、そんな可愛い幼なじみがいる事はほぼない。
美少女女神様も、美少女という属性にしても、女神様という属性にしても、現実世界では先ずあり得ないんだよ。
うわー、そうだ……めーちゃんって美少女で幼なじみで女神様だった。
俺からしたら、あの描写が創作だって分かるからこその憧れなんだよ。
でも属性ぴったりのめーちゃんからしたら、現実でしかないのか……
夢は夢だからロマンなのであって、それが現実に起こったら、ロマンじゃなくて現実になっちゃうんだよぅ。
「リュっちゃん……コレはあまり好きじゃなかったかな?」
「うーん、難しい問題だね……俺が後30年ほど若ければ、嬉しかったかも」
うん、それは間違いない。外見年齢15歳前後の美少女と同衾する48歳おじさんは、俺の倫理的にはアウトだもん。
30年若かったら精神年齢はともかくとして、肉体年齢は18歳だから外見だけなら約3歳差。少なくとも俺の倫理的なハードルは、かなり低くなる。
「あ、そうなんだ。じゃあ、こうすれば問題ないよね! それっ!」
めーちゃんが俺を指差すと、何も無い空間で指を軽く振った。
「ぎゃー!」
痛い痛い痛い痛い………
まず感じたのは激しい痛み。体内に直接キリで穴を開けられるような、ミキサーで内臓をミンチにされるような、そんな痛みが一斉に襲う。
ミシミシミシミシミシミシミシミシ……
次に軋む音。骨だけじゃない、内臓も脳も鼓膜も眼球も全てが軋み、何十にもなって身体中を駆け巡る。
熱い熱い熱い熱い熱い……
最後に駆け巡ったのは膨大な熱量だ。まるで体の血という血が最大スピードで流れ、血管との摩擦熱で身体中が焼き切れるんじゃないか、と思うほどの熱さ。
床に這いつくばって、痛みを少しでも誤魔化すために、転げ回っても無様だとは思わないで欲しい。
ジェットコースターのような痛みをいきなり半ば強制的に体験させられたのだ。いつ終わるのかも、全く見当がつかない。
永遠かと思われた苦行の時間が終わると、なぜか体が途轍もなく軽くなっていた。
横たわってた俺は立ち上がって、腕を上げたり、軽く腿上げをしてみたりする。
なんか体の可動域が心なしか広がり、動きもスムーズになった気がするんだよな。
さっき痛かったのって、効果が高いけど、滅茶苦茶痛い整体みたいなものなのかな……
だとしてもあんな強烈な痛み、もう二度と体験したくないよ。
「これで喜んでくれるよね?」
めーちゃんがベッドから跳ね起き、俺に勢いよく抱きついてきた。
いつもならたたらを踏んでいたのに、めーちゃんのダイブをしっかり受け止められる自分の体幹に若干の驚きが隠せない。
ふと部屋にある全身鏡を見ると、そこには48歳のおじさんではなく、過去の自分の姿が写っていた。




