スレ番9の『料理は心の安定剤です』
「しくしくしくしくしくしく……」
お婿に行けない、行く予定もないけどさ……
俺は顔を両手で覆い隠し、ゴロゴロと床に寝転がりながら、羞恥に身悶えていた。
「なるほど、なるほど、男性にとって下着とはそういう側面もあるものなんだねー」
対するめーちゃんは晴れやかだ。先ほど俺のPC操作を見ていたせいか、基本操作はマスターしたみたいで、こんな俺をよそに1人で色々と下着を探している。
俺の頭の中から下着に関する情報を読み取って、下着という概念を完全に理解したらしい。
「リュっちゃんは、総レースとコットンの下着どっちが好き?」
そんな事、俺に聞いてこないで! ただでさえ強制的に恥ずかしい事を覗かれて、精神的ストレスが半端ないんだからさ。
「どっちでもいいから!」
「そうなんだー、どっちも好きっと、あとTバックとOバックどっちがいい?」
くぁwせdrftgyふじこlp……ダメだ、めーちゃんがセクハラ親父と化してる。
俺、ここに居続けてたら、大事な何かがどんどん削られる。
「夕飯の準備してくる……予算3万円くらいまでなら、好きなの選んでいいからさ。買うの決まったら呼んでね」
めーちゃんにそう言い残し、俺はヨロヨロと台所へ避難した。
そうは言いつつも、そろそろ夕飯の支度に取り掛かるには良い塩梅の時間帯なのも事実だ。
下着なんて、めーちゃん本人くらいしか見ないだろうから、少しくらい外したヤツ買ってもそんなに問題ないだろう。
最後まで買い物に付き合う必要はないし、あとは購入の時だけ俺がいればいいよな。
台所に着いた俺はどんな料理作ろうかと思案を巡らす。
昨日は残り物だったから、今日はめーちゃんに美味しいもの食べてもらいたいな。
ビーフシチューがいいかな、それともあっさり和食かな、パスタでイタリアンなんて言うのも捨てがたい。
決めた! ビーフシチューにしよう。時間は少しかかるけど、俺無職だし明日の朝のことは考えなくてもいいし。
安かった牛のブロック肉買ってきたから、それを圧力鍋使って、ホロホロにしよう。
小さく切ると肉溶けちゃうから、大きめに切って、ニンニクとバターで焦げ目がつくまで炒めてと……
デミ缶使うか、ルー使うか悩むところだけど、ルーの方が失敗少ないから、今日はルーで作ろう。
デミ缶でもルーでも、赤ワインは忘れちゃダメ。そんなに高いくない赤ワインでも、入れると味が段違いだしね。
タマネギも大きめに切ろう。細かくするのが好きって人もいるけど、俺的には形が残ってるけど、トロッとしたタマネギが好きなんだよね。
圧力鍋っていいよな。使って煮込めば何でもトロトロになるんだもん。
ブロッコリー入れる人もいるけど、俺はニンジン派だなぁ。
いや好きだよ、ブロッコリーも。明日エビとブロッコリーのサラダ作りたいから今日は入れない。
ジャガイモどうしようかな。入れるのは確定なんだけどさ。
圧力鍋にそのまま入れちゃう方が楽だけど、残ったビーフシチュー冷凍する時、具材にジャガイモあると解凍した時に食感が変わるんだよね。
今日は別茹でにするかな。
トマトピューレ少しとローリエ入れて、ご飯でも美味しく食べられるように隠し味にちょっと醤油を入れたら、鍋に火にかけ沸騰したら、蓋して圧力かける。
あとはしばらく待ち時間だ。
「リュっちゃんー、選び終わったよー」
リビングからめーちゃんの声がする。
料理はいいよね、無心になれる。
めーちゃんの下着騒動で生まれた精神的不安感はどこへやら、俺の心は平安を取り戻しつつあった。
「今行くよー」
俺は手を洗い、しているエプロンで軽く拭くと、めーちゃんの待つリビングへと向かう。
PC画面を見ると、ショッピングカートになっており、買物の合計金額は28000円ほどで上下で15点。
「結構、量買えるんだね」
「なんか安いサイズがあったから」
その時の俺は知らなかったが、ブラジャーはカップ数が大きくなればなるほど高額になるらしい。そうでないと安いとの事。
めーちゃんの場合、現物さえあればサイズはどうでもいいので、同じデザインのものでも、安いのを購入したようだ。
予算内だし問題はなさそうだから、これで精算っと。
支払い方法を指定し、届け先の確認っと。
あー、俺宛になってる。
女性用下着の宛先が中年男性は、かなり変態チックだよなぁ……
「宛先はめーちゃんにしたいんだけど、めーちゃんって本名なんて言うんだっけ?」
小さい頃から『めーちゃん』としか呼んでなかったから、本名分からないんだよね。
多分聞いたはずなんだけどなぁ。
「『芽吹』だよー」
芽吹か、めーちゃんらしい名前だ。
「っとなると、宛先は『最上 芽吹』って事になるから、打ち込んで……」
最上芽吹、最上芽吹……なんかリュっちゃんのお嫁さんみたい……
めーちゃんが宛先となる名前を何回かブツブツと連呼していたけど、どうしたんだろう。
あー、小さい頃はまだそんなに宅配便が普及してなかったから、めーちゃん荷物受け取るの初めてなのか。
だから浮かれてるのかー、納得納得。
注文を終えた俺は再び圧力鍋の様子を見る為に台所へと戻った。
しかし俺はこの後、めーちゃんが購入したものをキチンとチェックしとけばよかった、少しでもめーちゃんの判断に疑いを持つべきだったと、大後悔する事になるのである。
夕飯も出来上がり、机に並べる。ビーフシチューに海藻サラダとパンだ。
めーちゃんが、ご飯派だったときの事も考えて、そっちも用意した。
あとは常備菜のトマトとキノコのマリネを別皿に盛り付けてと。
「それじゃ、いただきます」
2人で手を合わせてから、食事をする。俺はご飯でめーちゃんはパンを選択している。
「やっぱり、リュっちゃんの料理は美味しいなぁ……」
めーちゃんがビーフシチューの片手を頬に当て、ジャガイモを頬張る。
これだけ美味しそうに食べてくれると、こっちも作りがいがあるなぁ。
さてと俺も食べるか、まずは一口。
少し肉を大きめに切ったから、圧力鍋で煮込んでも肉の形が残ってる。でも口に入れた瞬間、ほろほろと溶けていく。
我ながらいい出来だ。隠し味に醤油を入れたから、ご飯にも合うなぁ。
個人的にホワイトシチューはご飯と食べられないけど、ビーフシチューならご飯と一緒にいけちゃうんだよなぁ……この違いって何なんだろうなぁ。
隠し味に醤油入れたら、ホワイトシチューでもご飯と一緒に食べられるのかな?
「あ、そうだリュっちゃん、明日の朝と昼はご飯いらないからね」
えっ、ダイエット? めーちゃん全然太ってないし、そんな必要ないと思うんだけどなぁ。
「なんで?」
「ゲームソフトの内容読み込むのに支障が出るんだよね。ご飯食べちゃうとさ」
ご飯食べると支障が出る? 儀式的な何かで身を清める一環で断食的なものが必要なのかな?
「……分かったよ」
そう言われちゃうと、そうとしか言えなくなるよなぁ……
俺に手伝える事なんて何も無いし、せめて俺もめーちゃんに付き合って朝昼抜きの生活に付き合うか。
「代わりに夜は食べるから! だからリュっちゃん、美味しいご飯作ってね」
俺が元気がなくなったのに気付いたのだろう、めーちゃんが俺にそんな可愛いお強請りをしてきた。
「うん、分かった。楽しみにしててね」
めーちゃんの心遣いが嬉しいな。
夕飯を終えた俺たちは、めーちゃんは再びアニメ鑑賞に、俺は今日買えなかったデフォルト設定のステータス画面UIを作るのに必要なソフトをネットで探しその後入浴。結局その日は夜の11時頃に就寝した。




