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作者: めん坊
掲載日:2025/10/06


 人里離れた 山の奥


 暗い森の 山の奥


 ぼくは棺桶に入っていた


 「やっぱり棺桶は快適だよぉ」


 「だれも傷つけやしない」


 「だれも咎めもしない」


 「最高だ」


 「まだ、そんなとこいるの?」


 月の模様のワンピース


 麦わら帽子のその少女


 名前は、ルナ


 「やぁ、ルナかい」


 「まだ、棺桶に入ってるんだ」


 「そうだよ、一度入ったら快適でね。もう出られないよ」


 「そっか」


 「ルナはまだ地球にいるのかい?」


 「君がいるからね」


 「そっか」


 「もう傷は癒えたんでしょ?」


 「もう傷跡は無いよ。バッチシさ」


 ぼくの左の胸の痕


 弾丸撃たれた胸の痕


 キレイさっぱり胸の痕


 「そろそろ出なよ」


 「嫌だね」


 「まだ私のこと、好きでしょ?」


 「好きだけど…」


 「好きだけど?」


 「棺桶から出られないんだ」


 「でも、好きなの?」


 「好きだよ」


 「外は涼しいよ、お花もきれいだし」


 「そうなんだ」


 爽やかな風が野原を伝う


 月見草の頬を伝う


 月夜の下のルナとぼく


 「話があるんだけど…」


 「どうしたの?ルナ?」


 「私、そろそろ帰らないといけないの」


 「えっ…」


 「今すぐではないんだけどね、もうお呼びがかかっているの」


 「そうなんだ」


 「最後に君と会いたいんだ」


 「それは…」


 「棺桶から出てくれないかな?」


 「ぼくには分からないんだ」


 「分からない?」


 「うん、棺桶からの出かたが分からないんだ」


 「そうなんだ」


 「うん、ぼくの意志で開けようと思ってるんだけど、開かないんだ」


 「そっか」


 「だから、出られない…」


 「そっか」


 「ごめんよ、ルナ」


 湿った風が野原を伝う


 月見草がこちらを振り向く


 月光は青白く


 「ルナにお願いがあるんだけど…」


 「なに?」


 「最後に首飾りを作ってくれないかな?」


 「首飾り?」


 「うん、月見草で首飾りを作って欲しいんだ」


 「分かった」


 月見草を 1摘み1摘み


 月見草を 1摘み1摘み


 月見草を ギュッギュッギュッ


 月見草を ギュッギュッギュッ


 「作ったよ、首飾り」


 「ありがとう。ぼくの棺桶にかけてくれないかな」


 「分かった」


 「ありがとう」


 「棺桶にかけたよ」


 「ありがとう。これでぼくも行けるよ」


 「どういうこと?」


 「ぼくはもうじき死ぬんだ」


 「えっ…」


 「先に行ってるよ、ルナ」


 「死ぬってどういうこと?」


 「だいじょうぶ、月に行くだけだから」


 「そうなの?」


 「うん、肉体は棺桶の中に入ったままだけどね」


 「それじゃ…」


 「うん、地球で会うのは今夜で最後」


 「また会えるんだよね」


 「うん、月で会えるよ」


 「さよならは言わないでよね」


 「言わないさ」


 「結局、棺桶から出られなかったね」


 「うん、出られなかったし、出なくてもいいしね」


 「そっか」


 「月に行けば出られるから」


 黄金に光る月の都


 ペッタンペッタン 餅をつく


 ぼくらを迎える餅をつく


 「そろそろ時間だ」


 「そっか」


 「先に行ってるよ、ルナ」


 「待ってて、後で私も行くから」


 「うん、ありがとう」


 「君が行った後、この首飾りも持って行ってもいい?」


 「月に?」


 「うん、君の首からかけてあげたいんだ」


 「そっか」


 「棺桶の上からじゃなくてね」


 「持ってってくれないかな?」


 「分かった」


 「ありがとう、ルナ」


 「こちらこそ」


 「愛してるよ」


 「愛してる、トム」


 棺桶は静かに佇む


 ぼくの身体は息をひきとる


 ルナは棺桶をそっと開ける


 月見草を 1摘み1摘み


 月見草を 1摘み1摘み


 月見草を ギュッギュッギュッ


 月見草を ギュッギュッギュッ


 あなたの傷を愛してる



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